抄録
アイソタクティックポリプロピレン(iPP)の溶融紡糸による未延伸糸の急速冷却過程において、280 °C よりも高い溶融状態から得られた未延伸糸では、α 晶は形成されず準安定相であるメソフェイズが形成され、逆に 280 °C より低温での紡糸では α 晶が形成されることを示した。このように、融点より非常に高い温度での溶融状態が、急速冷却後の結晶化の有無や状態を決定づけていることを明らかにした。この理由としては、高温溶融状態にて、iPP の結晶化に重要な影響を与える何らかの凝集構造(オリジン)が存在し、これがメモリー効果として融点より 100 °C 以上も高い高温領域まで残存しているためと考察した。
また、未延伸糸の構造はその後の延伸過程での伸び切り鎖の構造形成において決定的因子となり、メソフェイズを有する未延伸糸から延伸を開始することが、高延伸倍率で高強度な iPP 繊維を得るのに圧倒的に有利であることを明らかにした。