抄録
200 °C から 300 °C におけるアイソタクティックポリプロピレンの高温溶融状態について、SPring-8 放射光を用いた SAXS 測定を行い、Ornstein-Zernike Plot による凝集構造に関する解析を試みた。その結果、相関距離(ξ)にして 0.5–0.8 nm 程度の構造が観測され、260 °C を超えた付近から、そのサイズの減少傾向が確認された。通常温度上昇に伴い、熱的密度揺らぎにおける ξ は増大することが予想されるが、260 °C 以上での温度上昇に伴う ξ は、むしろ減少傾向が観測され、実際には逆の結果が得られた。故に、この温度領域に残存する構造を熱的密度揺らぎから説明することは困難であり、何らかの微視的凝集構造が高温溶融状態で残存していることが示された。
いまだ断定はできないが、上記微視的凝集構造が結晶化過程に重大な影響を及ぼす構造体(オリジン)の可能性が示唆され、この構造は結晶融解過程からの履歴を背負い、高温領域まで、その形態や大きさを変えながら引き継がれたものと思われる。