抄録
奈良三彩・緑釉陶器胎土の焼成条件・色調・化学組成と鉄の化学状態に関する情報を得るため、非破壊で XAFS 測定をおこなった。硬質胎土(焼成温度が高い)の緑釉陶器、須恵器等ではこれらに相関が認められる資料が多いことが確認できたが、軟質胎土(焼成温度が低い)の奈良三彩・鉛釉陶器・施釉瓦は、鉄価数と胎土色調・化学組成に相関が認められない資料があることがわかった。胎土に元々含まれている鉄以外の影響として、埋蔵環境中にある「鉄気(かなっけ)」が胎土に浸漬したと仮定し、発掘現場の鉄気を含む湧水に、新たに作製した焼成温度の異なる参照試料を15か月間浸漬し XAFS 測定を実施した。その結果、焼成温度が低い参照試料では、表面から 0.1~1 mm 深さで僅かに異なるスペクトルが得られた。