2012 年 3 巻 1 号 p. 3_19-3_22
顕著な分配性注意障害を呈した脳梗塞患者(初期評価時Trail Making Test(以下TMT)Part-A:181秒,Part-B:遂行困難)に対し,移乗動作自立を目標に回復期リハビリテーション病院にて理学療法を施行した。移乗動作時の問題点として,車椅子ブレーキ,フットレストの操作手順の抜け落ちや車椅子前方への移動が不十分なまま起立動作を開始する場面が多くみられた。この動作制限の主要因として,分配性注意障害が考えられた。そこで分配性注意障害に対して,チェックリストなどの外的代償や自己教示などの内的代償を用いた戦略置換法,行動条件を反復的に指示し入力する行動条件付け法を用いて,移乗動作改善のための理学療法アプローチを実施した。最終評価時(発症後約4ヶ月半),TMTはPart-A:202秒,Part-B:420秒と,Part-Aの所要時間は増加したが,Part-Bが遂行可能となった。移乗動作は見守りレベルまで改善し,車椅子ブレーキ,フットレストの操作忘れも軽減し,車椅子前方への移動が可能となった。TMT Part-Bが遂行可能となったことから,分配性注意障害の改善によって車椅子操作を含む移乗動作能力の向上に結び付いたと考えられた。分配性注意障害を伴う症例の移乗動作能力獲得には,長期的な介入が必要であることが推察された。