東日本大震災後に開始された地域情報のアーカイブ活動には,以前から複数の問題が指摘されてきた。これに加えて,近年,多くの震災アーカイブが「あの時,どう避難したのか」という被災上の教訓の伝達に焦点を当てすぎており,その土地に生きた人々の多元的なライフストーリーが省略されているとする指摘が現れた。先行研究の分析は,しかしながら,多元的なライフストーリーの生成プロセスの理論化がまだ十分ではない。佐々木(2016)では,福島県双葉郡浪江町民に焦点をあてて多元的なライフストーリーの生成を実際に試みており,「協働」の場を設定することで,その中での相互行為の中から多元的なライフストーリーが語られうることを実証的に示している。しかし,なぜその結果が得られるのか等は明らかにされていない。本論文では,行為を演技として捉えるゴフマンの演劇論的アプローチの役割概念を用いて,その仕組みを明らかにした。協働の場では,多層的なオーディエンス構造とオーディエンス・パフォーマー間の親密な関係性によって,チームパフォーマンスが促された。その際,参加者たちは自由に自身の役割を見出すことができ,メディアが設定する避難者像から距離を取ることができ,これにより新たな語りの発現に至った。