社会情報学
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特集「ネオ・サイバネティクス」・論文
意味の回復による喪失体験の価値の反転—心的システムの発達モデル
大井 奈美
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2019 年 8 巻 1 号 p. 49-64

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抄録

本研究の課題は,喪失体験における意味の回復プロセスを明らかにすることである。フロイトによれば,喪失体験の本質は意味の喪失である。意味が回復されてはじめて喪失とともに生きられるようになり,喪失がその後の人生の礎になりうる。

本研究の方法として,構成主義の立場から心を一種の自律的なシステムと理解する「心的システム論」を参照する。心的システム論は,主にオートポイエティック・システム論に基づく,心をめぐる様々な研究を含む。社会情報学はそれらを理論的に参照してきた。心的システム論は,いかなる内的な意味や価値の実現に向けて心的システムが「作動する」のかに注目する。この分析観点は,喪失体験をめぐる苦しみの原因と癒しについて考察するために有益と思われる。

本研究は,喪失の意味が回復または再構成される過程を「4モードモデル」として提案する。そこでは,心的システムが意味を創出する基準(「成果メディア」)を4つの段階に類型化した。システム進化の観点から4モードモデルを心的システムの発達モデルとして理解することで,従来の心的システム論の展開を試みた。

結論として,心的システムが意味構成体としての自律性・閉鎖性を発現させ,個別的な理想性を克服する普遍的な自己超越を志向することが,喪失の意味回復を可能にする。最終的に,同様に苦しむ他者の内的観点に立って他者を理解する「内部観察者」へと心的システムは進化しうる。このとき喪失の絶望から「愛」が生じる価値の反転が起こる。

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