抄録
近年、バーチャルリアリティ(VR)技術の発展により、教育分野でもその活用が進んでいる。とくに、初等・中等教育における実験実習は、生徒の関心と理解を深める上で重要な役割を担っており、これにVR技術を応用すれば、体験的な学習効果を維持しつつも、通常では再現が難しい状態のシミュレーションなどが可能になる。一方で、VRを教育現場で応用するにあたり、メディアリテラシーの多寡に依存しないデバイスの開発と、楽しさや豊かさを兼ね備えた高度な没入体験の提供が強く求められている。そこで、本研究では、ペルチェモジュールを用いた温冷呈示システムと、曲げセンサによる直感的な入力システムを搭載した、Thermal Grip VR Controller(TGV-C)の開発を行った。温冷呈示位置を母指と示指の指腹とし、中指の曲げセンサによって入力操作を行う。TGV-Cの温度変化機能に対するユーザの反応速度を評価した結果、温感呈示には 5.27秒、冷感呈示には2.28秒遅延が存在することが明らかとなった。また、参照用として既存のコントローラ(Meta Quest Touch Plus コントローラ:MQT-C)との比較検証を行った結果、TGV-CはVR体験の没入感と臨場感を向上させ、使用中の身体的疲労を軽減することが分かった。しかし、製作費用や設計については改善の余地が残っており、今後は、教育分野への応用を見据え、化学実験VRへの応用、および、様々な属性のユーザに対する効果検証なども行う必要がある。