抄録
日本において慢性疼痛を抱える患者の割合は約22.5 %とされ、特に高齢者人口の増加に伴い、今後さらにその数は増えると予想される。それに対する薬物療法では、慢性疼痛の緩和が十分に図れず、身体的・心理的な苦痛が続く場合が多いことが課題となっている。薬物以外の治療法としてアロマセラピー(芳香療法)は注目されている補完代替療法の一つである。本研究の目的は、慢性疼痛を抱えるパーキンソン病(Parkinson's disease)患者に対して、エッセンシャルオイル(精油)成分がどのような作用が期待できるのかを検討する事にある。私達は、既にアロママッサージにてPD患者の疼痛緩和を確認している(青山他, 2025)。本研究の研究方法として、4種類の国内産の精油(レモングラス、ユーカリ、ベルガモット、クロモジ)を対象にガスクロマトグラフィーを用いて成分分析した。結果として、鎮痛作用や鎮静作用があるとされる成分がこれらの精油に多く含まれていることが確認された。特に日本国内で生産されたレモングラス精油は、海外で生産され輸入された精油と比較して、アルデヒド類が低いことで皮膚刺激が抑えられ、ゲラニオール(graniol)などのエステル類の含有量の高さからも香りが穏やかな日本人の体質に合った芳香成分が多く含まれていることがわかった。さらに、精油を単体として使用するよりも、複数の精油をブレンドすることで、相乗効果が得られることが分かった。具体的にはレモングラスやユーカリにはシトラール(citral)や1.8-シネオール(cineol)の鎮痛作用様の成分が豊富であり、ベルガモットやクロモジにはlinaloolなどの鎮静作用を示す成分の含有率が豊富であるため、これらを組み合わせることで、より強い鎮痛効果が得られることが示唆された。これらの結果より、調査した4種類の精油は、PD患者の慢性疼痛の緩和に有効であり、特にブレンドによってその効果が高まることが期待された。今後、アロマセラピーの臨床研究を積み重ねることで、広く慢性疼痛の補完代替治療に役立つ可能性が考えられる。