抄録
バイオエタノール生産に利用される微生物(酵母)は、一般にグルコース等の六炭糖はよく発酵するが、キシロース等の五炭糖はほとんど発酵しない。本論文では、キシロースを発酵する新奇天然酵母を単離して、セルロース系バイオマスからのバイオエタノール生産を行った研究を報告する。セルロース分解物を多量に含有する天然試料を、キシロース発酵酵母の採集源と捉え、東京海洋大学・高尾山・多摩川河川敷の腐植土、水再生センター活性汚泥、カブトムシ幼虫の飼育土から、酵母403株を単離した。全403株中からグルコース発酵酵母289株を選抜し、さらに289株から有望と判断される酵母8株を選抜した。これらの8株に関して28S rDNA D1/D2領域の塩基配列解析を行った処、KS-25株・KS-28株・KS-29株はTetrapisispora iriomotensis、RC-19株・RC-35株はCandida tropicalis、RC-44株はSaccharomyces cerevisiae、RC-48株はSpathaspora passalidarum、UK-5株はSpathaspora passalidarumであることがわかり、特にT. iriomotensisとS. passalidarumは新奇性の高い酵母であった。T. iriomotensis KS-25株・KS-28株・KS-29株は、2 %グルコース液からバイオエタノール7~8 g/Lを生産し、S. passalidarum RC-48株・UK-5株は、2 %キシロース液からバイオエタノール3~4 g/Lを生産していた。さらに、2 %グルコース+2 %キシロース混合液からのバイオエタノール生産量は、S. passalidarum UK-5株が12.8 g/Lと最大であった。従って、セルロース系バイオマスを原料とする際には、S. passalidarum UK-5株が最適発酵酵母であると考えられた。そこで、シュレッダー裁断紙または木造建築廃材(スギのこぎり屑)の糖化原料を各酵母株で発酵した処、S. passalidarum UK-5株は各々11.0 g/L、3.38 g/Lのバイオエタノールを生産した。