抄録
筆者らは水圏バイオマスを原料とするバイオエタノール生産を行っており、原料糖化液の成分状態が酵母発酵能に著しい影響を及ぼすことを見出した。本論文では水圏バイオマスからのエタノール生産に及ぼす諸因子(糖化液糖/塩濃度、酵母種)の影響を解析する。原料は水圏由来のアオサとホテイアオイを使用した。粉末原料を希硫酸分解した後、NaOHまたはBa(OH)2を用いて分解液のpHを調整し、セルラーゼ処理により糖化原液を作製した。糖濃度増加のため、糖化原液から2.5~3.0倍の濃縮糖化液を作製した。NaOHを用いる濃縮糖化液①の塩濃度は、アオサ:5.14 % (w/v) 、ホテイアオイ:5.48 % (w/v)であった。一方、Ba(OH)2を用いる濃縮糖化液②の塩濃度は、アオサ:1.05 % (w/v) 、ホテイアオイ:0.25 % (w/v)と著しく低下した。次に、濃縮糖化液①と②を、5 株のSacchromyces cerevisiaeと1株のPichia stipitisを使用して各々発酵させた。S. cerevisiaeでは、①によるバイオエタノール生産量と比べて、②による生産量は1.1~1.4倍程度高かった。また、P. stipitisでは①の生産量と比べて、②のそれは2~5倍程度高くなり、酵母種が持つ耐塩性差による影響が強く表れた。次に、高発酵能を持つ海洋由来S. cerevisiae C19株を用いて、発酵に及ぼす塩濃度の影響を詳しく調べた。アオサ糖化液(NaOH使用)の4倍濃縮液ではバイオエタノール生産量0 g/lとなったが、アオサ糖化液(Ba(OH)2使用)では10倍濃縮液でも5.52 g/Lのバイオエタノールを生産した。さらに、ホテイアオイ糖化液(Ba(OH)2使用)の7.2倍濃縮液では30.90 g/lの高濃度バイオエタノールを生産した。これらの結果から、高糖濃度かつ低塩濃度の糖化液を作製すること、酵母種/株を選択することが、効率的バイオエタノール生産にとって重要であることがわかった。