抄録
歯科矯正治療は約3~5年の期間を要する。その間、歯面に矯正器具を装着する必要がある。矯正器具の使用は食べものが歯と矯正器具の間に挟まりやすくなる上に唾液による自浄作用も得られにくくなる。その結果、虫歯の発生リスクの上昇につながるといった問題がある。この問題を解決するために、虫歯予防効果が知られているフッ素徐放性微粒子を矯正器具中に固定化させ、徐放効果を発現できれば矯正治療中の虫歯の発生を減少させることができる。歯科矯正器具であるリテーナーの主要成分はメタクリル酸メチル(MMA)やメタクリル酸エチル(EMA)である。これらのアクリル系成分の粉末とモノマー液を患者の歯形に塗布していくことでリテーナーは作製される。ここでリテーナー作製時に、MMA、EMA粉末およびモノマー液にフッ素徐放性微粒子をそのまま混合すると、液と粉末のなじみが悪くなりリテーナーを作製できない。そこで、フッ素徐放性微粒子をアクリル系材料でカプセル化することでリテーナー作製時に液と粉末のなじみが良好になると考えた。そこで本研究ではフッ素徐放性微粒子を内包する粉末(MMAおよびEMA)の粒子径(200 μ 以下)と同程度であるMMAとEMAの共重合体を外殻とするマイクロカプセル(MC)を調製した。フッ素徐放性微粒子の含有率を増加させるためにMMAやEMAモノマーをそのまま利用するのではなく、それらの予備重合(プレ重合)を行った。フッ素徐放性微粒子がMMAおよびEMAのプレ重合液中に保持されやすくなり、含有率の向上が期待できる。プレ重合の時間を変化させてMCを調製した結果、プレ重合の時間を長くするに伴いフッ素徐放性微粒子の含有率の向上が確認できた。その一方でプレ重合時間に伴い、平均粒子径も増加した。これらの実験結果より10 minのプレ重合時間でマイクロカプセルを調製した時、最も含有率が高く、平均粒子径も200 &mu:以下に抑えることができた。