抄録
本稿は、日本の質的研究において要請されている、質的な社会調査と社会理論との連結を図る上での一つの試みとして、英語圏で普及し日本では文化社会学とも訳される社会理論「カルチュラル・ソシオロジー」の概念とその系譜を紹介する。本概念を、まず日本における既存の文化研究や質的調査の理論的位置づけと比較し、次に英語圏におけるカルチュラル・ソシオロジーの現状を説明し、最後に日本の実証研究理論との対応関係を述べる。
カルチュラル・ソシオロジーはアメリカ人のアレグザンダーにより提唱され英語圏で普及した。現在、イギリスでは文化全般を扱う社会学として再定義され、アメリカ国内でも諸派が存在する。一方、提唱者のアレグザンダーは「構造解釈学派」とよばれる理論を構築し、そこで「文化の自律性」を重視した「強いプログラム」を採用している。
日本でもこれまでに文化的問題を意識し、遡及的にカルチュラル・ソシオロジーに分類される営みがなされてきた。一方で、その理論的営みが実証研究の現場と十分に接続できていたとは言い難く、理論の不在は時に現場で分析手法の混乱を引き起こしてきた。とりわけ構造解釈学派に対応する理論に欠け、潜在的に本理論を要請する状態にある。この現状を打開するためには、構造解釈学派を援用した理論構築を実証現場の個々の理論と接合していく作業が有効になろう。