抄録
アメリカ黒人社会学者W.E.B. デュボイスは、マルクス主義的な視点から植民地支配や人種主義に基づく欧米中心的な世界秩序を分析する一方で、汎アフリカ主義による世界変革の可能性を論じた。デュボイスによれば、欧米諸国は、アフリカ・アジア・西インド諸島において安価な労働力と天然資源を搾取することで利益の最大化を図るという資本主義的動機から植民地を拡張しようと争い、その結果として二度の世界大戦を引き起こした。デュボイスは、世界大戦を招いた植民地支配の問題を解決すべく、19世紀末から20世紀半ばにかけて汎アフリカ主義を提唱し、5回にわたる汎アフリカ議会の開催に関わった。デュボイスが展開した汎アフリカ主義は「偏狭な人種的プロパガンダ」ではなく、奴隷貿易、奴隷制、植民地支配、人種差別という苦しみの経験を共有する有色人種の世界的連帯を展望したものであった。そして、デュボイスは、それぞれ独自の文化が尊重される一方で、民主主義や平和といった普遍的理念が人種・民族や国境を越えて共有される可能性とその条件を模索した。本稿は、人種・民族や国境を越えた連帯によって、欧米中心的な世界秩序が生み出した構造的矛盾を解決しようとしたデュボイスの汎アフリカ主義とその影響について論ずる。