抄録
本稿では、3.11 に生起した「超広域複合災害」を前にして、社会学理論はこれについてどのような記述と貢献ができるのかを、社会システム理論の立場から、考察してみたい。まず第1章において、1986 年にリスク社会論が提起されて以後の、リスクディスコースの変化を簡単にスケッチし、これが、今後の議論状況においても反復されうる可能性について述べる。次に、社会システム理論の立場から東日本大震災の一つの局面をマクロに記述するさいの手がかりになる概念として、「システミック・リスク」について検討する。この概念は、元々は金融の分野で使用されていたものだが、東日本大震災が社会にもたらした事態を把握するときに有効であると思われる。しかし、本稿ではさらに、社会システム理論に由来するリスク変換の概念を媒介にして、システミック・リスクをもう少し複雑なプロセスとして記述する。各システムごとのリスクの「変換」や「読み替え」あるいは「構築」とそれに基づくリスク処理が、他の諸システムにとっての別のリスクを帰結しうるのである。こうした記述の試みは、理論的にもまた実践的にも重要な含みを有していると思われる。以上をふまえて、「危機」が語られる現況だからこそむしろ、セカンド・オーダーの観察に徹することが社会学理論に求められるのだという点を、最後に確認しておきたい。