現代社会学理論研究
Online ISSN : 2434-9097
Print ISSN : 1881-7467
「危機」とハーバーマス近代社会論
不法性のユートピアをめぐって
泉 啓
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2012 年 6 巻 p. 26-36

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抄録

「危機」は「(変革の)チャンス」である、という言説が存在する。この論理はしばしばネオリベラリズムとの近さが唱えられてきた。もっともこの論理のイデオロギー性ばかり語るのは生産的ではない。未確定状態としての「危機」にはR・ソルニットが語るような、人々の未知の関係性を生み出す肯定面がある。
本稿はJ・ハーバーマスの近代社会論を、このような「危機=チャンス」論の批判的・反省的企てとして読解する。かつて彼の議論はCh・ムフから、人々の合意を重視する非政治的な議論であると批判された。しかし彼の合意概念は同時に非合意や非知の契機を極めて重視したものであり、また「未完のプロジェクト」の提唱も近代社会の未知なるものへの開かれに注目したものである。立憲主義を核とする近代社会は、不法行為を自己変革のための駆動因として自己内に秘める。ハーバーマスにとって「危機」とは状況と現行法との齟齬が最も顕著になる瞬間のこと、それゆえ現行法により不法者と定義された人々が現行法にとっての未知なるものを唱えうるチャンスの到来のことである。
ソルニットの説く災害ユートピアとは、このように理解された近代社会の一局面を語ったものといえる。災害ユートピアとはマイノリティ的不法者の不法性が最も相対化され、彼らとマジョリティとの間に合意可能性が切り開かれるような場所といえよう。

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© 2012 日本社会学理論学会
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