現代社会学理論研究
Online ISSN : 2434-9097
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夏目漱石の「道義上の個人主義」再考
後藤 孝太
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ジャーナル オープンアクセス

2012 年 6 巻 p. 76-88

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抄録
本稿では、夏目漱石の晩年の思想である「道義上の個人主義」を再考する。夏目は小説家だけでなく、同時代の文明批評に関わった知識人でもあった。だが、こうした知識人としての夏目の思想は中心的に扱われず、さまざまな解釈がなされてきた。その最たるものが個人主義思想である。そこで夏目の講演録や評論の言説を分析し、彼の社会認識を踏まえ、「道義上の個人主義」の全体像を提示することを試みた。夏目は個人主義を近代市民社会の産物として捉えていた。だが他方で分業をめぐる「生存競争」において、個人主義は「利己主義」や「神経衰弱」という原子論的な個人主義という形で疎外されてしまう。これらを克服する試みが「道義上の個人主義」という思想であることを明らかにした。さらにエミール・デュルケームの「道徳的個人主義」との比較を通じて、それがまた社会成員のあいだで共有されるべき個人の尊厳という理念であり、新たな道徳的秩序の基礎であることを考察した。こうした点から、夏目漱石を近代日本の先駆的な個人主義思想家として位置づけた。
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© 2012 日本社会学理論学会
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