聖マリアンナ医科大学雑誌
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原著
エスシタロプラム長期投与による脳内ジゴキシン濃度の検討
浅利 翔平長田 賢一渡邉 高志芳賀 俊明古茶 大樹
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2017 年 44 巻 4 号 p. 221-229

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抄録

P糖蛋白質 (P-gp) は脳,肝臓や腎臓などに存在する膜蛋白質であり薬物輸送に大きな役割を担っている。選択的セロトニン再取り込み阻害薬であるエスシタロプラムはP-gpの基質でありP-gpを介して脳内から血漿中へ輸送される。またジゴキシンもP-gpの基質であることが知られており,P-gpの薬物輸送機能を評価する際に広く用いられている。
これまでの研究では短期間での生体への抗うつ薬投与によるP-gpにおける影響について報告はあるが抗うつ薬の長期投与によるP-gpの機能への影響を検討した報告はなく,本研究ではエスシタロプラムの長期投与によるP-gpへの影響について検討した。
C57BL/6マウスに10 mg/kg/dayのエスシタロプラムを6週間に渡って経口での長期投与を行い,解剖2時間前に2 mg/kg のジゴキシン単回腹腔内投与を行いジゴキシンの脳内濃度及び血漿中濃度を測定した。またルシフェラーゼ発光反応によりATPaseに対する活性化作用を測定することでエスシタロプラムのP-gp活性への影響について検討した。エスシタロプラムとベラパミルの併用ではP-gp活性は相加作用であるのに対して,エスシタロプラムとジゴキシンの併用することでP-gp活性は相乗的増加を認めた。エスシタロプラムのP-gp活性において相乗的に作用する薬物の報告は国内外において初めてである。
エスシタロプラムの6週間投与によりジゴキシンの脳内濃度が対照群と比較して0.7125 ng/mlから1.158 ng/mlまで統計学的に有意な上昇 (P=0.035) を認めた。これはエスシタロプラムの経口での長期投与によりマウス脳でのP-gpによるジゴキシンの脳からの排泄が抑制されジゴキシンの脳内濃度が上昇したと考えられる。本研究はエスシタロプラムとジゴキシンの薬物相互作用によりジゴキシンの脳内濃度の上昇を確認した初めての報告である。

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