2023 年 51 巻 2 号 p. 49-56
短期間でIb型からIIIb型へ損傷形態が変化した外傷性肝損傷の1例を経験した。
【症例】20歳代,男性。建設作業現場で右前胸部を資材に挟まれ受傷し,当院救急搬送された。来院時軽度前胸部痛を認めたが,意識晴明でvital sign安定していた。来院時CT検査では静脈相で中肝静脈近傍に約5 cmの高吸収域を認めたが,肝被膜破綻は認めなかった。外傷性肝損傷Ib型の診断でNOM(non-operative management)の方針となった。受傷約46時間後のCT検査で急激な血腫増大を認めたが,自覚症状変化なく,循環動態も安定していたためNOM継続とした。受傷から約77時間後に誘因なく急激な腹痛増悪を認め,CT検査で肝被膜破綻示唆され,外傷性肝損傷IIIb型へ移行したと判断した。その後ショックバイタルとなったため緊急手術へ移行した。開腹し中肝静脈の損傷を認めたため縫合止血し肝周囲ガーゼパッキングを行いICU帰室した。術後第2病日にデパッキングした。術後は経過良好で第22病日に独歩で軽快退院され,術後2ヶ月目には社会復帰された。
【結語】NOMの適応,継続の可否の判断材料として,生理学的な循環動態のみではなく,解剖学的な損傷を評価することの重要性が示唆された。