聖マリアンナ医科大学雑誌
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51 巻, 2 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著
  • ―触感の変化及び超微細構造の観察―
    室井 良太, 寺脇 史子, 夏木 靖典, 谷田部 かなか, 足利 光平, 藤谷 博人
    2023 年 51 巻 2 号 p. 39-48
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    スポーツ活動中のCOVID-19の感染拡大予防の一つにスポーツ用具,物品の消毒がある。本研究の目的は,野球ボールへ各種消毒液を塗布した後の手指の触感の違い,及びボール表面の超微細構造変化を評価することである。対象の野球ボールは1,硬式(天然皮革)と2,軟式(天然ゴム)であった。消毒条件は,A:水,B:次亜塩素酸ナトリウム,C:界面活性剤,D:エタノールとした。各液を使用して200回の消毒を繰り返した後に官能試験を実施した。実施者は一般健常成人11名で,「つるつる」「べたべた」「かさかさ」の3つの触感をVisual Analogue Scale(VAS)を用いて評価した。統計処理は消毒無しをコントロール(コ)としてMann-WhitneyのU検定を用い,P<0.05を有意差ありとした。さらに電子顕微鏡で消毒前後のボール表面の構造変化を観察した。触感はVAS(0~10)にて(コ)を5として評価した。1ではCが「つるつる」(2.7)と「べたべた」(3.4)で有意に(コ)に比べ低値を示した。2についてBは「かさかさ」(4.3)でのみ有意な低値を示した。A,C,Dは3触感それぞれに有意な変化がみられた。電子顕微鏡の観察は消毒前後で表面の凹凸の深さや数に変化が見られた。本結果から感染拡大予防における野球ボールの消毒液の選択としては,硬式ボールではCを,軟式ボールではBが推奨されると考えた。

症例報告
  • 木村 紗衣, 井田 圭亮, 小泉 哲, 西澤 一, 増田 哲之, 土橋 篤仁, 小林 慎二郎, 大坪 毅人
    2023 年 51 巻 2 号 p. 49-56
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    短期間でIb型からIIIb型へ損傷形態が変化した外傷性肝損傷の1例を経験した。

    【症例】20歳代,男性。建設作業現場で右前胸部を資材に挟まれ受傷し,当院救急搬送された。来院時軽度前胸部痛を認めたが,意識晴明でvital sign安定していた。来院時CT検査では静脈相で中肝静脈近傍に約5 cmの高吸収域を認めたが,肝被膜破綻は認めなかった。外傷性肝損傷Ib型の診断でNOM(non-operative management)の方針となった。受傷約46時間後のCT検査で急激な血腫増大を認めたが,自覚症状変化なく,循環動態も安定していたためNOM継続とした。受傷から約77時間後に誘因なく急激な腹痛増悪を認め,CT検査で肝被膜破綻示唆され,外傷性肝損傷IIIb型へ移行したと判断した。その後ショックバイタルとなったため緊急手術へ移行した。開腹し中肝静脈の損傷を認めたため縫合止血し肝周囲ガーゼパッキングを行いICU帰室した。術後第2病日にデパッキングした。術後は経過良好で第22病日に独歩で軽快退院され,術後2ヶ月目には社会復帰された。

    【結語】NOMの適応,継続の可否の判断材料として,生理学的な循環動態のみではなく,解剖学的な損傷を評価することの重要性が示唆された。

  • 白土 允, 中野 茉莉恵, 森内 美希, 大串 健一郎, 廣瀬 あかね, 吉村 博, 清水 直樹
    2023 年 51 巻 2 号 p. 57-63
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    生後3か月未満の低月齢乳児における上部尿路感染症単独・先天性腎尿路異常単独・これらの合併に伴う一過性偽性低アルドステロン症(pseudo-hypoaldosteronism type III, PHA III型)は多数報告されている。その多くが重症の低ナトリウム血症と高カリウム血症を伴い生命の危急事態で発症する。今回,低月齢乳児の単純性上部尿路感染症に続発した,一過性Fanconi症候群(Fanconi Syndrome, FS)を経験した。生後28日の21トリソミーの児が,画像精査で尿路異常を伴わない初めての上部尿路感染症に罹患した。抗菌薬投与による速やかな解熱にも関わらず活気不良が遷延し,精査により,尿細管障害が近位尿細管に限局した(PHA III型や遠位尿細管機能障害は伴わない)FSと診断した。アルカリとカリウムの短期補充で全身状態は速やかに改善したが,近位尿細管機能の完全回復には2か月を要した。低月齢児の上部尿路感染症には近位尿細管に限局した一過性の尿細管機能異常を合併する可能性があり,感染症治癒後もその機能回復が遷延する可能性がある。低月齢乳児の上部尿路感染症において,適切な抗菌薬投与が開始され解熱が得られたにもかかわらず全身状態の回復遅延が認められた場合は本病態を考慮すべきであり,近位尿細管機能回復を注意深く経過観察すべきである。

  • 吉田 徹, 田北 無門, 川口 剛史, 津久田 純平, 中島 拓郎, 昆 祐理, 松本 純一, 森澤 健一郎, 藤谷 茂樹
    2023 年 51 巻 2 号 p. 65-71
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    【緒言】胸部への鈍的外傷は心臓・肺などの胸部重要臓器の存在もあり,呼吸関連の重症病態が発生しやすい。

    【症例】20歳代男性,5階建て建物屋上から飛び降り受傷。来院時ショック状態,肺挫傷・左肺裂傷と活動性出血,左腸腰筋の血腫と活動性出血,胸腰椎の破裂骨折,右肩甲骨と左鎖骨および第1肋骨骨折,左脛骨・腓骨の開放骨折を認めた。両肺挫傷・左肺裂傷が著明で気道出血も認め,分離肺換気下に左肺動脈上葉枝と舌枝にそれぞれ選択的に塞栓術を施行した。ICU入室後に呼吸不全が高度に進行したが,下大静脈損傷も存在している可能性があり,右内頚静脈から27 F double lumen catheter(DLC)を挿入し抗凝固療法なしでVV-ECMO施行としたが,開始直後に右高度気胸も出現,一時ECMO完全依存となった。徐々に酸素化は改善し第5病日にECMOから離脱,第31病日に自宅退院した。

    【考察・結語】本症例は外傷性呼吸不全に対して治療開始時は分離肺換気と血管塞栓術で対応した。しかし,対側肺挫傷の増悪に伴い著明に酸素化能低下したため,DLC使用V-V ECMOで救命し得た症例である。我々が調べる限り胸部外傷による呼吸不全への分離肺換気とDLC・ECMOの併用は国内では初めてとなるが,今後,胸部外傷による重症呼吸不全の際にはECMO使用含めた集学的治療による救命の可能性を認識すべきと考えられた。

学会・講演抄録
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