水利科学
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一般論文
多摩川近代改修の夜明け前
──多摩川築堤期成同盟會の奮闘──
和田 一範
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2019 年 63 巻 1 号 p. 1-52

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抄録

アミガサ事件(大正3年⟨1914年⟩9月16日)の三日後の9月19日,橘樹郡の関係11ケ町村のメンバーが川崎町の橘樹郡役所に集まり,9月29日,「多摩川築堤期成同盟會」が正式に結成された。この期成同盟会は,これまでの陳情が県知事宛であったのに対し,多摩川改修のキーパーソンが内務大臣であることを理解するや,早速内部大臣宛の多摩川新堤塘築造陳情書をまとめあげ,10月29日,神奈川県選出の小泉,井上代議士とともに内務省を訪問,下岡次官に陳情書を手渡し,事情を説明している。アミガサ事件と有吉堤,多摩川直轄改修への道の一連の事件の顚末初期にあたるこの時期,「多摩川築堤期成同盟會」の活動は,多摩川新堤塘築造陳情書をまとめて内務大臣に提出した以降は,川崎市史や多摩川誌をはじめ既往の文献には明確な記述が見られない。 この時期は,アミガサ事件に際して対応した石原健三知事の任期中であり,アミガサ事件から約一年後の大正4年(1915年)9月に有吉忠一知事が赴任をするまでの期間である。期成同盟会のこの時期の活動は,自助・共助の取り組みとして大変重要な意味を持つ。 このたび,神奈川県公文書館に所蔵する武蔵国橘樹郡北綱島村の飯田家文書のなかに,「多摩川築堤期成同盟會報告書」と,「大正4年5月5日付決議録」など,多摩川築堤期成同盟會の奮闘の記録を見いだしたので,ここに活字にして報告する。 防災の主役,自助・共助として,地域住民の様々な代表たちが,多摩川の改修に向けて奮闘する模様が明確に記され,現代の防災に与える大きな教訓が見いだされる。

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© 2019 一般社団法人 日本治山治水協会
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