抄録
症例は60歳台男性.上腹部痛を主訴に上部消化管内視鏡を施行し,早期胃癌(印環細胞癌)を認め入院となった.入院時に膵仮性嚢胞を伴うアルコール性膵炎の併発を認めた.保存的治療にても腹痛は改善せず,仮性嚢胞は増大傾向を示したため経乳頭的膵仮性嚢胞ドレナージを施行し,嚢胞の著明な縮小を認め腹部症状も消失した.EUSで嚢胞と主膵管の移行部に低エコー性腫瘤を認め,CTとMRIで同部に乏血性の腫瘤性病変を認め,血管造影で上腸間膜静脈·脾静脈合流部の全周性狭窄を認めた.ERCPで膵管の狭窄像がみられ,膵管ブラシ細胞診でclass IVであったため,膵癌を強く疑った.早期胃癌および膵癌疑いの診断のもと膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的には,膵臓は著明な炎症性細胞の浸潤と線維化の所見のみで悪性所見を認めなかった.膵癌との鑑別に苦慮した膵仮性嚢胞を伴うアルコール性膵炎の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.