2008 年 23 巻 4 号 p. 510-518
症例は81歳の女性で,2002年3月に左乳癌(pure mucinous carcinoma)で手術後,経過観察中であった.2004年3月のCTと腹部超音波検査で,膵体部の径3cmの腫瘍と主膵管の拡張,肝内に多発する低吸収域を指摘された.CA15-3やCA19-9は正常,CEAが4.7ng/ml, SPan-1が960U/ml, DUPAN-2が1600U/ml以上と上昇していた.以前に乳癌の手術既往があり,転移性再発やそれ以外に胃癌,大腸癌の転移も考え精査を施行した.結局,他病変は認めず,多発肝転移を伴う膵癌の診断で2004年5月より2週間に1回のペースでgemcitabine(GEM)の投与を開始した.膵腫瘍や肝転移巣の縮小に伴いSPan-1は一旦低下したが再上昇し, 2006年2月にS-1/GEM併用療法を開始後まもなく正常化した.その後2007年6月に肝転移巣に対してラジオ波焼灼療法(RFA)を施行した.同時に施行した生検の結果adenocarcinomaの診断であった.患者は,治療開始から3年7か月後の2008年1月に肝不全で死亡したが,亡くなる4か月前の2007年9月までは食思不振や疼痛に悩まされることなく良好な日常生活を送ることができた.さらに亡くなる直前の腹部CT検査で,膵の腫瘍は径1cmと良好にコントロールされていた.予後不良な進行膵癌に対しS-1/GEM併用療法の有効性が示されると同時に,GEMとS-1との相乗効果が推察された.