抄録
症例は59歳,男性.分枝型IPMNにて膵頭十二指腸切除を施行した.病理検査で腺腫から上皮内癌までの病変からなるIPMN,膵実質浸潤,およびリンパ節転移を認めた.膵実質浸潤は微量かつ散在性でIPMNとの連続性が確認できなかった.正常膵管上皮,腺腫,上皮内癌,微量な膵実質浸潤,およびリンパ節転移にてK-ras codon12の遺伝子変異を検索した.正常膵管上皮はwild type GGT(Gly)であったが,腺腫,上皮内癌,およびリンパ節転移はすべてGGT(Gly)→CGT(Arg)と変異が一致した.微量な膵実質浸潤はDNA抽出不良で評価できなかったが本症例はIPMN由来浸潤癌であると強く推察された.K-ras codon12の遺伝子変異の検索は病理形態学的に通常型膵癌との鑑別が困難なIPMN由来浸潤癌の厳密な診断に有用と考えられ,今後多くの症例で病理学的な連続性との相関を検証する必要がある.