抄録
急性膵炎はトリプシンの異所性活性化が中心的な役割を果たすと考えられてきたが,NF-κBの活性化,オートファジー不全,酸化ストレス,小胞体ストレス,細胞内カルシウムの異常などの多くの異常が同時に進行することが明らかとなってきた.これらにも進行の序列はあるはずだが,未だ明らかにされておらず,急性膵炎の発症のメカニズムの詳細は不明のままである.膵酵素の調節性外分泌は細胞内カルシウムによって制御されている.アセチルコリンやコレシストキニンの分泌刺激が基底膜側の受容体から入ると頂端側にカルシウムスパイクが生じて開口放出が起こる.過剰な分泌刺激などを加えて膵炎を発症させると細胞内全体に異常なカルシウム濃度の上昇がみられて遷延する.その異常な上昇をカルシウム結合蛋白やキレート剤,カルシウムチャンネルの阻害剤などを用いて制御すると膵炎発症が抑制されることが明らかになってきた.本項ではカルシウムシグナルに焦点をあてて膵炎との関係を概説する.