2022 年 76 巻 3 号 p. 170-176
浸透圧(Pressure-retarded Osmosis:PRO)発電は天候に左右されない,再生可能エネルギーを利用した安定した発電方法として注目を集めている.この発電方法は,半透膜を介した2 種類の溶液の濃度差を利用し,自発的な水の移動によりタービンを回して水力発電を行う手法であり,浸透圧エネルギーを水量エネルギーに変換する半透膜が搭載された膜モジュールが主要部となる.東洋紡は,長年にわたり培われた膜分離技術を応用展開し,三酢酸セルロースからなる中空糸膜型PRO 膜モジュールの開発,製品化を行った.この膜モジュールは,PRO 発電プラントの商業化を目指すデンマークのSaltPower 社に採用されている.SaltPower 社はPRO 発電に用いる高濃度溶液として,10 w%以上の濃度をターゲットとしており,地域暖房に用いられている高塩濃度地熱水を利用した実証試験や,製塩工場から得られる高濃度塩水を用いた実証試験を行ってきた.製塩工場から得られる高濃度塩水を用いた実証試験においては,東洋紡のPRO 膜モジュールを利用して,約7,000 W のグロス発電出力を約700 時間安定して得ることができた.これらの検討を元に,SaltPower 社は2022 年中に第1 号の商業プラントの立上げを目指してプラント建設を進めており,これは世界初の商業用PRO 発電プラントとなる見込みである.