日本海水学会誌
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海水中の親生元素の濃度に関する理論的研究
三宅 泰雄猿橋 勝子鷺 猛金沢 照子
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1987 年 40 巻 6 号 p. 342-349

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抄録

海洋における炭素, 窒素, リンのような, いわゆる親生元素の無機化合物や, そのイオン濃度の鉛直分布は, よく知られているように, 表面では小さく, 深さとともに増大している. しかし, これらの元素の海洋における滞留時間は水の滞留時間 (~104年) に比べて長いため, 無機形と有機形を加え合わせた総濃度は, 海域や深さの別なく, 一定となるはずである. しかし, 実際に従来の分析値を用いて計算してみると, これらの元素の総濃度は一定とはならない. 著者らは, この不一致は, これらの元素の有機物の分析値に誤りがあるのではないかと考えた. そこで, いままでに用いられてきた海水中の有機化合物の分析法 (湿式酸化法) にかわり, 乾式燃焼法によって炭素や窒素の有機化合物の分析を行った結果, 著者らの予想するとおり, これらの元素の総濃度は, 海域と深さのいかんにかかわらず, 一定となることがわかった. さらに検討をすすめた結果は, これらの親生元素では無機, 有機ともに, その濃度はそれぞれ一定の当初濃度と変化量の和であらわされることがわかった. 変化量は生物による無機形から有機形への変換と, 有機形の酸化分解による有機形から無機形への変化に支配されている. 酸化分解は溶在酸素の減少量 (いわゆるみかけの酸素消費量AOU) と定量的な関係にあることが確認された.AOUに対する係数は炭素では0.4, 窒素では0.043, リンでは0.0029であり, 総濃度はそれぞれ炭素は2,410, 窒素は48.2, リンは3.48μgat/kgであることがわかった. これらのことを基にして, それぞれの親生元素の濃度 (有機形, 無機形) や相互の関係について述べる.

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