抄録
我が国における優先取組物質の見直しに対応した大気中クロム分析法の開発を目指し検討を行った。PTFE フィルターに PM2.5 等の大気粉じんを捕集し、三次元偏光光学系エネルギー分散型蛍光X 線分析装置で非破壊的に全クロムを測定した後、アルカリ抽出/イオンクロマトグラフィー/ポストカラム吸光光度法 (IC/DPC 法) により六価クロムを測定した。IC/DPC 法による検量線の直線性および繰り返し精度は良好であったが、試料からの抽出に用いるNaOH に起因すると考えられる六価クロムのブランクが一定量認められた。VやFe および三価クロムのイオン種の共存による六価クロム分析への影響は認められなかった。本研究における分析操作によって試料中の六価クロムはほぼ100%回収され、また六価からの価数変化も起こらないことが示された。実大気試料採取時における三価および六価クロムそれぞれの価数変化の検討を行ったところ、1 週間大気を通気させてもクロムの価数は変化しなかった。2012 年6 月~2013 年7 月の期間の横浜におけるPM2.5 中クロム濃度は6.5±4.9 ng/m3、同六価クロム濃度は1.0±1.0 ng-CrVI/m3となり、六価クロムの全クロムに対する割合は17.4±15.1%となった。全クロム濃度から六価クロム濃度を差し引くことで、クロム及び三価クロム化合物濃度 (5.5±4.7 ng/m3) を求めることができ、優先取組物質の見直しに対応した大気中クロム分析を達成することができた。