大気環境学会誌
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総説
免疫毒性に着目したトリクロロエチレンの有害性の同定と評価―有害大気汚染物質の健康リスク評価の更なる改善に向けて―
小池 英子 青木 康展松本 理大野 浩一
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2021 年 56 巻 5 号 p. 108-122

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抄録

有害大気汚染物質の健康リスク評価では、有害性評価値の算出が困難であった毒性の科学的知見の蓄積に伴い、それらを勘案した評価の必要性が高まっている。そこで本研究では、有害大気汚染物質の一つであるトリクロロエチレン(TCE)を対象とし、「免疫毒性」に着目した有害性評価のケーススタディを実施した。既往文献をレビューした結果、ヒトおよび実験動物の知見から、TCEは自己免疫や感作性・アレルギー、およびこれらに関わる免疫促進を誘導する可能性が示唆された。一方で、経口や経皮曝露に対し、吸入曝露の実験的研究は限られていたことから、知見の多い経口曝露のデータから曝露量を換算し、吸入曝露による毒性値の算出を試みた。その結果、マウスの自己免疫反応誘導の知見から求めた吸入の最小毒性量は0.16 mg/m3、自己免疫疾患モデルマウスの病態の進展およびラットのアレルギー反応の増悪を含む免疫促進の誘導では0.0057 mg/m3となった。TCEの感作性・アレルギー(過敏症症候群)との関連性は、2018年の大気環境基準の再評価時に不確実係数として考慮され、環境基準は0.13 mg/m3以下に改定されており、その後の科学的知見からも、更なる検討が必要と考えられる。免疫毒性の適切な評価は、健康リスク評価手法の更なる改善において、重要な課題の一つである。

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