大気環境学会誌
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研究論文(原著論文)
夏季の埼玉県所沢市におけるPANs全量観測に基づく高濃度オゾン事象の探究
松本 淳 定永 靖宗加藤 俊吾谷本 浩志猪俣 敏
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2025 年 60 巻 5 号 p. 87-100

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抄録

ペルオキシアシルナイトレート類PANsは、オゾンO3とともに光化学的に生成する。オキシダント対策にはオゾン高濃度事象の解明が必要だが、国内都市郊外でPANs観測を絡めた研究事例は不十分である。本研究では、熱分解/キャビティ減衰位相シフト法(TD/CAPS)のPANs計を用いて、埼玉県所沢市にて都市郊外大気中のPANs全量を観測した。3年以上にわたり96%を超えるデータ取得率を実現し、PANs常時監視の可能性を示した。2023年4月1日から2024年8月6日の期間を解析対象として、季節変動を把握しつつ、2024年夏に捉えたポテンシャルオゾンPO(=O3+NO2)の顕著な高濃度事象にも注目した。日ごとに得た日中のPANs–PO回帰直線で、PO切片はバックグラウンドオゾンに似た季節性を示した。PANs–PO相関解析の結果、高温でオゾン生成レジームがNOx律速寄りほどPO高濃度事象が発生しやすいことがわかった。顕著なPO高濃度日には、回帰直線の傾きやPO切片が大きい、NOx/NMHCs比が低い、PANs濃度が高い、高温だが高NO2/NO比によりPAN寿命が長い、との傾向が見られた。2024年夏の代表的なPO高濃度日には、PANs濃度とK(PAN熱分解の平衡定数)の積がPOと正の相関を示した。また、この事例では、気塊が東京郊外を長時間かけて所沢に飛来していた。

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