抄録
1, 6-ジニトロピレン (1, 6-DNP) は強い変異 (癌) 原物質であり, 環境中では多環芳香族炭化水素 (PAH) と共存している。そこで, プレインキュベーション法により, S9 mix添加・無添加両条件下で, サルモネラTA98株に対する1, 6-DNPの変異原性に及ぼすPAHの影響を調べた。その結果, 1, 6-DNPのdirect acting mutagen活性は各種PAHの共存により低下した。PAHの変異原性抑制作用の強さはベンゾ (e) ピレン, ベンゾ (a) ピレン (5環PAH), ベンゾ (a) アントラセン, クリセン, ピレン, フルオランテン (4環PAH), アントラセン, フェナンスレン, アセナフテン (3環PAH) の順であった。一方, 1, 6-DNPのpromutagen活性はこれらPAHの共存により増加し, この変異原性増強作用の強さはdirect acmg mutagen活性抑制作用の順序と類似していた。すなわち, 縮合環数の多いPAHほど1, 6-DNPの変異原性に対して大きな影響を及ぼした。1, 6-DNPは電子受容性であり, PAHは一般に電子供与性であることから, 両者の混合物中では電荷移動錯体が形成されるものと推論される。一般に縮合環数の多いPAHほど電子供与性が強く, 錯体を形成し易い。これらの事実は1, 6-DNPの変異原性に及ぼすPAHの影響の主閃が錯体形成によるものであることを強く示唆している。