抄録
黄砂現象によりアジア大陸から飛来した土壌粒子の我が国の環境大気に及ぼす影響を把握するために, 環境庁による国設大気測定網 (NASN) の札幌, 野幌, 仙台, 新潟, 東京, 川崎, 名古屋, 京都八幡, 大阪, 尼崎, 倉敷, 松江, 宇部, 筑後小郡, 大牟田の全国15地点における昭和52年 (1977) 4月から昭和62年 (1987) 3月までの10年間の浮遊粒子状物質の分析結果を用いて検討を行った。その結果, 大気中のA1およびCa濃度は, 毎年, 黄砂現象が出現する春季 (3月, 4月, 5月) に極めて高い濃度が観測され, 通常期と比較して, Alの場合, 2.2~5.3倍高くなり, また, Caの場合も1.9~6.2倍高い値となった。そして, 大気中のAlとCaの濃度比 (Ca/Al) に注目すると, 大都市および工業都市では, 通常期においてその値は0.71~1.22と高いのに対して, 黄砂期には0.72~0.97と若干減少した。一方, 地方都市では, 通常期において, Ca/Alて濃度比は0.54~0.59と低いのに対して, 黄砂期には0.66-0.78と逆に増加する傾向が認められた。これは, すべての都市において, 黄砂期には飛来してきた土壌粒子の影響を強く受け, 大気中のCa/Al濃度比が, 飛来した土壌粒子の発生源と推定される中国砂漠土壌中のCa/Al濃度比 (0.82~0.85) に近づく事が原因として考えられる。
各都市における黄砂期に飛来した土壌粒子の大気中の全土壌粒子に占める割合は, 56~80%であり, 平均で68.1%という高い値であった。そして, 黄砂期に飛来した土壌粒子の降下量を算出したところ, 0.4~2.3 (ton/km2・month) と推定できた。また, 地域的には, 西日本-おいて黄砂の影響をより強く受ける事が明らかとなった。