抄録
1997年7月2日10時頃, 東京湾中央部において大型タンカーが底触し, 大量の原油が流出した。流出油は揮発性の高い原油であったため, その3割程度はすぐに蒸発し大量の石油蒸気として大気中に放出された。本研究は, この原油流出事故による大気環境影響を実測データ解析とモデル数値解析によって検討した。
実測データを解析した結果, 東京湾央部の流出油から揮散した高濃度NMHCは風速10m/s程度の南西風によって東京湾北東部から茨城県南部にパフ状に輸送され東京湾北部陸上で最高6ppmCに達したこと, 高濃度NMHCパフの通過時にはNMHCとともに光化学オキシダントも上昇することが認められた。
次に数値解析によって事故による大気環境影響を検出した。基本ケースの数値計算によって原油流出に伴う大気環境影響の基本的特徴が再現されるのを確認した後, 事故ケースと事故なしケースの差を影響量とみなして分析した。この結果, 高濃度NMHCパフ内においては光化学反応によってO3等の光化学オキシダントやNO2が生成し, その最大上昇濃度はO318 ppb, NO22 ppbであることが明らかとなった。