大気環境学会誌
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超微小 (ナノ) 粒子の生体影響をめぐって
微小粒子との比較で
岩井 和郎
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2000 年 35 巻 6 号 p. 321-331

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抄録

ドイツ都市大気の測定では, PM2.5の約10重量%に0.1μm以下の超微細 (ナノ) 粒子が含まれている事が報告されている。実験的に酸化銅のナノ粒子をハムスターに吸入させてその体内動態を調べると'粒子は肺胞上皮を通過して肺間質に入り, リンパ管や血管内, 肺門リンパ節に運び込まれる事が見られた。また微小粒子とナノ粒子の動態を比較した定量的実験では, ナノ粒子で遙かに多い量が肺間質からリンパ節に入ることが示されている。健康人の肺に沈着しているナノ粒子には各種金属元素が含まれている事が分析電顕の研究から知られる。また各種排出源からの浮遊粒子状物質は肺障害性を引き起こすが, それは含まれる金属種により異なることが示唆されている。一方組織反応性に乏しい合成レジン, テフロンの蒸気に含まれるナノ粒子を吸入すると, 強い急性反応が起こることも報告されている。このナノ粒子が凝集して粗大塊となったものは直ちに毒性が消失しているという実験成績は, 化学組成よりも粒子が極めて小さいという事が重要であることを示している。もしPM2.5が疫学研究で報告されている心肺疾患死亡に関係するとすれば, ナノ粒子の血管内への容易な吸収は, その急性毒性を説明し得る。

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