2006 年 41 巻 3 号 p. 123-134
近年, 北半球における観測データから, 人為起源前駆物質の排出量増加によると考えられる, 過去数十年間にわたる地表オゾンのバックグラウンド濃度増加が報告されている。この傾向は, 発展途上国の人口増加に伴う社会経済活動の発展によって今後も続くと考えられるため, 将来における濃度変化の推移が半球規模で注視されている。大気中のオゾン濃度に観測される増加率はせいぜい年率数パーセントであり, 高精度な検出と早期の対策には高精度標準に基づく国内・国際的な観測網のネットワーキングが不可欠であるが, 日本においては大気中濃度の測定自体は研究観測ならびに現業観測で行われているものの, オゾンの国家標準とそれを用いたトップダウン的なトレーサビリティシステムが存在しない。本研究では, 国内のいくつかの研究機関が有する基準と米国標準技術研究所の標準参照光度計との相互比較実験を行った結果, 用いる基準や手法によって数パーセントの差が生じる可能性が示された。また, 国立環境研究所において新たに導入した標準参照光度計の値が米国標準技術研究所および国際度量衡局の維持する光度計の値と非常に良く一致することが確認された。最後に, 日本国内においては各地でさまざまな基準が用いられているため, その差によって測定値に有意な差が生じる可能性があり, 高確度・高精度な標準に基づくトレーサビリティシステムの構築が急務であることが示唆された。