抄録
一部癌化を示した多発胆管腺腫(biliary papillomatosis)の1例を経験した.症例は64歳,女性.入院時,黄疸は認めなかったが,US,CTで高度に拡張した左右両葉の肝内胆管内に乳頭状の腫瘤が充満している像を認めた. ERC, US 誘導下吸引細胞診, 血管造影など諸検査により,肝内両葉に乳頭状発育を示す肝内胆管癌と診断,手術不能と考え経過観察を行った.その後,高度の黄疸,腫瘍よりの大量出血を繰り返し死亡した.剖検の結果,肝門部より肝内胆管全体に及ぶ多発性の腺腫で,ごく一部にのみ乳頭管状腺癌の像を認めた.また,高度な胆管拡張の原因として,胆道造影にて肝内胆管の拡張が不均一である点,組織像にて末梢胆管に形成異常を思わせる大型の平滑筋束が存在する点より,先天性肝内胆管拡張症を疑ったが確診に至らなかった.自験例は欧米で報告をみるbiliary papillomatosisの癌化例に酷似し,胆管癌の発生母地を推察するうえでも貴重な症例と思われた.