谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
特集1 子どものお薬
1. 小児に対する医薬品の開発ータミフルを例として
山崎 恒義
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2008 年 2008 巻 11 号 p. 1-19

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抄録

 承認取得段階で得られる新薬の臨床評価データは、限られた条件を満たした患者により、限られた条件のもとに集められたものに限られる。多くの新薬では日本人患者によるデータは千人ぐらい、世界中で承認申請に使われるデータパッケージでもせいぜい1万人程度である。近年は長期投与例や特殊症例に対する有効性や安全性評価データも開発段階で実施され、承認申請のデータパッケージにある程度含まれるようになってきてはいるが、それにも限度がある。発売以後には、新薬は合併症をもつ息者や併用療法なども含め、様々に異なる背景因子をもつ息者に状況に応じて投与される。従って、承認取得の時点では予測し得なかった有害反応が市販後に発見され、時には大きな薬害に繋がったり、折角長い年月と多額の費用を投じて創り上げた新薬が、市販後まもなく回収せざるを得なかった例もかなりの数に上る。サリドマイド事件を経験後の1963年にWHOは各国に副作用モニター制度の確立を提案し、以後現在に至るまで一貰して市販後の薬剤安全性監視の重要性が各国において、 ますます認識されてきている。こうした流れに沿って、かつては新薬開発の目標は承認取得と発売におかれていたが、現在ではそれは1つのマイルストーンに過ぎず、医薬品開発とは1つのイノベーションプロセスを意味し、安全性の追求と適正使用追求の概念も含むようになり、EBMに引き継がれて現在に至っている。当然のことながら適正使用という言葉には、特殊な状況におかれた個々の患者に対する適正使用までも含む。このような概念の変化は薬を提供する側や規制する側の目線がますます患者に向けられるようになってきていることを示している。

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© 2008 安全性評価研究会
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