谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
2008 巻, 11 号
谷本学校 毒性質問箱
選択された号の論文の30件中1~30を表示しています
はじめに
特集1 子どものお薬
  • 山崎 恒義
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 1-19
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
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     承認取得段階で得られる新薬の臨床評価データは、限られた条件を満たした患者により、限られた条件のもとに集められたものに限られる。多くの新薬では日本人患者によるデータは千人ぐらい、世界中で承認申請に使われるデータパッケージでもせいぜい1万人程度である。近年は長期投与例や特殊症例に対する有効性や安全性評価データも開発段階で実施され、承認申請のデータパッケージにある程度含まれるようになってきてはいるが、それにも限度がある。発売以後には、新薬は合併症をもつ息者や併用療法なども含め、様々に異なる背景因子をもつ息者に状況に応じて投与される。従って、承認取得の時点では予測し得なかった有害反応が市販後に発見され、時には大きな薬害に繋がったり、折角長い年月と多額の費用を投じて創り上げた新薬が、市販後まもなく回収せざるを得なかった例もかなりの数に上る。サリドマイド事件を経験後の1963年にWHOは各国に副作用モニター制度の確立を提案し、以後現在に至るまで一貰して市販後の薬剤安全性監視の重要性が各国において、 ますます認識されてきている。こうした流れに沿って、かつては新薬開発の目標は承認取得と発売におかれていたが、現在ではそれは1つのマイルストーンに過ぎず、医薬品開発とは1つのイノベーションプロセスを意味し、安全性の追求と適正使用追求の概念も含むようになり、EBMに引き継がれて現在に至っている。当然のことながら適正使用という言葉には、特殊な状況におかれた個々の患者に対する適正使用までも含む。このような概念の変化は薬を提供する側や規制する側の目線がますます患者に向けられるようになってきていることを示している。

  • 堀田 純子, 富永 佳子
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 20-27
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
    解説誌・一般情報誌 フリー

     多くのキノロン系抗菌薬は、前臨床試験において幼若動物で関節毒性が認められるため、小児の適応を取得していない。現在、本邦で小児領域の適応を有しているのは経口の小児用ノルフロキサシン(小児用バクシダール®錠)のみであり、その他、小児の炭疸にはシプロフロキサシンのみが米国疾病管理センター(CDC)による推奨用法用量の記載があり、使用できる。一方で、新たな耐性菌の増加などの背景から、小児の適応追加の要望が専門医の間からあがっている。注射用シプロフロキサシンは欧米では一次選択薬として使用しないことと限定されてはいるが、特定の疾患において小児の適応を有している。本邦での適応追加に当たっては、小児に対する有効性と安全性からリスクとベネフィットを十分に考慮した上で使用される必要に加えて、小児科領域でも使用されることによるキノロン耐性菌の増加を抑止するため徹底した適正使用の実践が必要である。

  • 串間 清司, 星野 健二, 藤原 道夫
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 28-35
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
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     子どもと大人の免疫系は異なる点が多く、胎児や新生児の未熟な免疫系は成熟した免疫系と比べて環境要因や薬剤の影響を受けやすい。そのため、大人に投与した際よりも低い用量から副作用が認められ、より重度の影響を引き起こす場合があり、 子どもの免疫系への影響を評価する重要性が認識され始めてきている。子どもの免疫系への影響を評価するためには、成獣を用いた免疫毒性試験のみでは不十分であり、幼若動物を用いて免疫系への影響を評価することが必要であると考えられる。

     医薬品開発の非臨床における免疫毒性評価は「医薬品の免疫毒性に関するガイドライン(ICH S8)」に準じて実施されているが、このガイドラインには子どもの免疫系に対する安全性評価についての記載はない。しかしながら、2008年にEMEAから出された「Guideline on the need for non-clinical testing in juvenile animals of pharmaceuticals for paediatric indications」の中では「Immunotoxicity studies are only required if the chemical/pharmacological class of compounds or previous studies in humans or animals gives cause for concern for the developing immune system.」と書かれており、小児の医薬品を開発する上で免疫発達の評価が必要な場合がある。

     本稿では、まず始めに出生前後における基礎的な免疫系の発達について簡単に述べ、次に、免疫発達への影響を検討するための安全性試験について紹介する。残念ながら統一された試験デザインはまだないため、文献等で提唱されている試験デザインを基に、各施設で独自の試験系で実施している場合が多い。今回は、現在提唱されている発達免疫毒性の評価系 (Developmental immunotoxicty : DIT)について紹介し、最後に我々が NSAIDs を用いて免疫系の発達に対する影響を評価した例を紹介する。

  • 江馬 眞, 高橋 宏明
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 36-43
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
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     最近、胎児期を含んだ発育期の子どもに対する化学物質等の環境要因の有害影響に関心が高まっている。この時期は各器官が未発達であるが、特に、脳神経系は出生後も分化・成熟が続くことから、環境要因の影響を受け易いことが指摘されている。米国では、何らかの障害をもって生まれてくる子どもの約半数が脳神経系や行動に異常があり、そのうちの約10 %は化学物質の曝露によると報告されている1)。ヒトの疫学調査に加えて 2) 3)、 有害物質を環境中に出さず、また環境から排除し、化学物質の有害影響から次世代を防御するために、動物実験の役割は益々大きくなっている。このような目的に使用される動物実験のガイドラインとして、2007 年 10 月にOECD から胎生期~幼若期の化学物質曝露が脳神経系の発達に及ぼす影響を評価する神経発生毒性試験ガイドライン (Developmental Neurotoxicity Study Guideline、 No. 426) 4) が公表された。

     OECDのガイドライン策定の経緯をみると、1995年に神経発生毒性試験ガイドライン作成に着手し、何回かの改訂を経て、ようやく2007年に確定版として公表された。このように時間を要した背景には、発生毒性を検査するための複雑な試験系に、従来のガイドラインでは要求されなかった検査(学習と記憶、形態計測など)を導入することについて各国間での合意に時間を要したことによると思われる。この過程で、日本先天異常学会のDNT 委員会(旧Behavior Teratology委員会)は数々の有益なコメントを提出してガイドライン策定に大きな貢献を果たしてきた5) 6)

     神経発生毒性試験ガイドラインは、母動物に化学物質を投与して(妊娠期と哺育期)、次世代の脳神経系の発達に対する影響を調べることを主たる目的としている。多数の児動物を対象にして、性成熟や行動の発生とともに、脳神経系の形態(神経病理)と機能(行動)の発達への影響を調べることが求められる。本ガイドラインの大きな特徴は、画ー的な検査項目を記載しているのではなく、対象となる化学物質の特徴に応じて科学的に妥当な試験を実施するための原則が記載されていることにある。このため、ガイドラインを解説したガイダンスが発行されており7) 8)、 試験に採用すべき行動モデル、神経病理、電気生理、神経化学の手法等が解説されている。神経発生毒性試験に関わる学間領域には、発生学に加えて、病理学(神経病理学)、行動学、電気生理学、神経化学などの幅広い知識が要求される。このように、本試験の実施には多大な労力とともに幅広い知識が要求される。

     本稿では OECD の神経発生毒性試験ガイドラインについて、できるだけオリジナルに沿って概説を行った。試験の詳細はオリジナルのガイドラインを読んで戴きたい。なお、本ガイドラインは先行するUSEPAの神経発生毒性試験ガイドライン (OPPTS 870.6300) 9)、の大きな影響を受けて策定されているため、同ガイドラインも参考にされたい。また、神経発生毒性試験の策定の経緯や詳細は総説を参照されたい 10) 11)。さらに、ヒトならびに実験動物を含んだ神経発生毒性の全般については優れた総説 12)を参考にされたい。

  • 越前 宏俊
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 44-52
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
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     一般に常用量の薬物を投与して得られる薬物反応には大きな個人差があることが知られている。薬物の効果と毒性はそれぞれの標的分子に到達する薬物量とその時間推移が関係するので、薬物応答性の個人差には、薬物が標的分子に送達される時間的推移を規定する薬物の薬物動態(pharmacokinetics: PK) と、標的分子およびその下流の情報伝達経路における薬物感受性(pharmacodynamics: PD) の両要因の個人差が関係していると考えられている(図1)。

     小児は成人と比較して、いわゆる生活習慣病の罹患は少ないものの感染性疾患などは成人よりも高率に発症するため、薬物治療の頻度はむしろ成人よりも多い集団である。特に2才以下の免疫力が未発達の乳幼児では感染症などで薬物治療の頻度が高い。一方、小児は副作用の発現頻度または発現パターンが成人と異なる集団でもある。米国食品医薬品局(FDA)の副作用報告システムでは2才以下の小児について年間250 件あまりの薬物投与関連死亡の事例が報告されている1)、英国の市販後医薬品副作用収集システム(通称イエローカードシステム)の調査でも16才以下の小児薬物投与関連死亡はワクチン関連事例と過量投与事例を除いても 1964 年~2000 年に 331例が報告されている2)

     通常、医薬品の薬物動態と感受性の評価は成人患者を対象として行われるため、この集団と生物学的に離れた位置にある小児では既知の医薬品の体内動態と応答性において、成人集団と異なる特性を持つ可能性がある。一方、小児のPKとPDに関する臨床薬理学的情報は成人よりもはるかに少ないため、小児に対して標準的な医薬品の用法・用量を設定することは困難である。医薬品の添付文書情報でも、小児の情報は極端に少なく、効果と安全性を担保するだけの情報が不足しているとの理由で小児適応が禁忌とされている場合もあり、結果として多くの薬物が適応外使用 (off-label use)を余儀なくされている現実がある。一方、小児において薬物が適用外使用された際の副作用発現頻度は成人に比較して相対リスクが3.44と高いのである3)。真に「小児は小さな大人ではない」のである。ここに小児の臨床薬理学を充実させる必要性がある。

特集2 毒性試験の温故知新イヌの毒性試験
  • 古濱 和久
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 53-57
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
    解説誌・一般情報誌 フリー

     イヌ(Canis familiasis)はヒトとの類似性あるいはバイオ製剤の毒性試験においてはサル類に及ばないものの、経済性、取り扱いおよび生体試料の頻回採取の容易さから、ICHガイドラインにおいても非ゲッ歯類の1種と位置づけられている。系統としてはビーグル犬が性質温順、感染病の制御、中型(8~15 kg)・短毛・多産・遺伝学的に固定および背景データの豊富さから用いられている。一部の安全性薬理試験では体の大きな繁殖ハウンド系(20kg 前後)が、薬効薬理評価では稀に交雑系も用いられている。各種イヌ試験の実施にあたっては、倫理面とともに生理、機能および形態学的特性(種差と言い換えることが出来る)、個体差および系統差によく精通しておく必要がある。以下にその要点について、筆者のこれまでの経験とともに述べてみたい。

  • 小泉 富彦, 溝口 啓二, 渡辺 一人
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 58-69
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
    解説誌・一般情報誌 フリー

     近代における医薬品開発は欧米を中心に発展しました。その際、実験のツールとした動物においては非げっ歯類では主にイヌが用いられて来ました。動物種選択の際の特徴として、入手と取り扱いが容易(他の特定の動作を行なわせることが簡易)で、行動・症状の観察で薬物の作用ならびに毒性に関する情報を得やすい事等の理由により実験動物の中心として用いられていました。特に安全性試験においてのイヌの位置付けは、生体異質物質である化学合成物質ではげっ歯類からサル類への橋渡し的位置にあり、イヌからでもヒトヘの外挿性は比較的良好です。しかし近年、ヒトの標的分子に対する特異性が高いバイオ医薬品(e.g.ヒト化抗体医薬)開発が急速に進み始めると、交差反応性の不一致が問題点として浮上し、非げっ歯類の選択では臨床デザインに基づいたヒトヘの外挿性に優れ、かつ感受性の高い動物種を選択する重要明確な根拠が必要になり、霊長類の使用頻度が増しているのも現実です。

  • 安東 賢太郎
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 70-88
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
    解説誌・一般情報誌 フリー

     医薬品は従来の低分子合成化学物質からタンパク質や抗体に開発がシフトしてきて、ヒトあるいはその類縁種でなければ生体反応性が期待できないものが増えてきており、それに呼応してカニクイザルをはじめとしたサル類の非臨床試験が増えている。その一方で未だにイヌを用いた薬効薬理試験や安全性試験も数多く実施されている。

     イヌを用いた安全性試験の試験責任者の人たちからは、「イヌはわけのわからない反応が出て困る。」、「ヒトヘの外挿性のない作用は報告書のまとめ方に苦労する。」等のボヤキとも思える話しを聞く事がある。確かに多発性動脈炎が精巣や胸腺、心臓に自然発生し易いので安全性試験の結果評価には注意を要するという報告 1)があるし、イヌ独特のセロトニンシンドロームというヒトには外挿性のない異常行動を起こすことも知られているので試験責任者の方々の思いは理解できる。しかし、実験動物として汎用されるようになったカニクイザルは安全性試験に用いる上で問題はないのであろうか。確かにカニクイザルの背景データはかなりそろってきたとは言え、従来から非臨床試験に使用されているイヌに比べればはるかに少ないし、入手や飼育などの点で制約があり、イヌほど容易に使用できない。また、臨床において比較的よく認められる副作用である嘔気や吐気についての基礎検討において、ドーパミンD2受容体賦活作用による催吐薬であるアポモルヒネ(apomorphine)ではヒトやイヌ、ネコ、フェレット、ハトは嘔吐するが、サル、ブタ、ウマ、ロバは嘔吐しない 2)。この様に遺伝的にヒトに近いといわれるサル類でさえもヒトヘの毒性の予測は万全ではない。

     1990年から2004年までの間にグローバル市場から撤退した医薬品のリスト 3)を表1に示した。それぞれの薬剤について各種の非臨床試験の結果と撤退理由がどの程度、相関しているのか非常に興味深いことではあるが、この表を見ると34薬剤中13薬剤が肝毒性、11薬剤が不整脈をはじめとした心臓電気生理作用で撤退したことになる。さらに、2005年末にはチオリダジン(thioridazine)がQT間隔延長作用の為に販売中止となっているので、市場から撤退した薬剤のほぼ3分の1が不整脈をはじめとした容認しがたい心臓電気生理作用をその理由としている。心臓電気生理系への作用は市場撤退理由の大きなウエイトを占めることから臨床試験、非臨床開発を通して十分に評価をする必要がある。ここ10年程の医薬品開発上の大きな話題となった薬物誘発性QT間隔延長に関してはin vitroの試験系がほぼ確立されているものの、細動をはじめとした不整脈評価系は十分に確立しているとは言い難い。また、in vivoの試験系におけるQT間隔延長以外も含めた不整脈惹起性の検討には動物種の選択を始め、まだ検討の余地がある。そうした中、本稿では主に心臓電気生理作用を中心にイヌの有用性を考えてみたい。

  • 菅井 象一郎, 小林 章男, 益山 拓
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 89-99
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
    解説誌・一般情報誌 フリー

     血中における alanine aminotransferase (ALT, GPT) 及び aspartate aminotransferase (AST, GOT) 活性は、臨床及び非臨床において肝機能パラメータの一つとして古くから測定されてきた。特に、肝細胞壊死などの重篤な肝障害の発現に伴い、これらのトランスアミナーゼの活性は血中で顕著に上昇する。

     一方、毒性試験において血中トランスアミナーゼ活性の上昇がみられるものの、alkaline phosphatase (ALP)、lactate dehydrogenase (LDH)、総ビリルビン (T-BIL)、アルブミンあるいは凝固系 (APTT, PT)といった他の肝逸脱酵素あるいは肝機能パラメータの変化や、肝臓に臓器毒性を示唆する明らかな病理組織学的変化が認められないケースにしばしば遭遇する。過去の毒性質問箱のQ&Aにおいてもこのような事例がいくつか紹介されている。また、臨床試験においても血中トランスアミナーゼ活性の軽度な上昇が認められるものの、他の肝逸脱酵素や肝機能パラメータに変化がみられず、投薬中であっても酵素活性が正常値に戻るケースもある。

     トランスアミナーゼは肝臓以外の臓器にも広く存在し、血中トランスアミナーゼ活性は、肝障害以外にも図1に示すような栄養学的あるいは内分泌学的要因など様々な要因で変動することが知られている。非臨床試験や臨床試験において肝障害を示唆する明らかな変化を伴うことなくトランスアミナーゼ活性が特異的に上昇した場合、これらの要因と酵素活性上昇との関連を解析することはその毒性学的意義を考察する上で重要である。

     本稿では、トランスアミナーゼの臓器分布、機能、その活性に影響を与える種々の要因について概説し、薬剤投与時に肝障害を示唆する明らかな変化が認められず血中トランスアミナーゼ活性が特異的に上昇する機序について考察する。また、この考察の中では、イヌで特にこのような現象が起こりやすいことを紹介するとともにその機序についても考察する。

  • 神村 秀隆, 天水 大介
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 100-110
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
    解説誌・一般情報誌 フリー

     駆虫薬の一種インベルメクチン(ivermectin)をコリー犬に投与すると、投与された個体の30~40%が痙攣を起こすことが知られている。その原因として、痙攣を起こしたイヌにおいては、脳内に移行したインベルメクチンを血液側に汲み出すトランスポーターのMDR1(P-糖タンパク)が遺伝的に欠損していることが見出された1)。また、白血病の治療薬である6-メルカプトプリン等のチオプリンを代謝するthioprine S-methyltansferaseのヒトの遺伝子には多くの変異体が存在するが、イヌにおいてもthioprine S-methyltansferaseの遺伝子欠損が同種の薬物による重篤な副作用を惹起することが報告された2)

     投与された薬物がその薬理作用あるいは副作用を示すには、それらが体内循環に乗って作用発現部位に到達することが必要である。経口投与された薬物の場合、消化管で吸収された後、小腸ならびに肝臓での初回通過代謝を受けて体内循環に入り標的臓器に到達する。そして、再び肝臓等の代謝臓器、あるいは腎臓等の排泄臓器に移行して消失する。その為、薬物の輸送あるいは代謝等に関与する蛋白に変異があると、投与された薬物の体内動態が変化し、その作用に大きな影響が現れる(図1)。

     上述のインベルメクチンの例は脳での薬物輸送蛋白、チオプリンの例は抱合代謝の為の転移酵素の変異によるものである。これらは、薬物の安全性が遺伝子変異により影響を受ける典型的な例であるが、この様な事例はイヌにおいては、それほど多く報告されてこなかった。しかし、最近になって従来遺伝的に均質と考えられてきた実験用ビーグル犬において、薬物代謝で最も重要な役割を担う酵素群であるシトクロムP450(CYP)の一部欠損によると考えられる血漿中薬物濃度の極端な変動が相次いで報告された3)。これらの血漿中濃度の変動が及ぼす薬理作用あるいは安全性に関する情報は限られるが、多大な影響を及ぽすことは容易に推測される。本稿では、ビーグル犬のCYPの遺伝的多型に関し、その概要と安全性評価に及ぽす可能性について述べてみたい。

  • Rastislav Bator, John Finch
    原稿種別: other
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 111-115
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
    解説誌・一般情報誌 フリー

     Animal welfare is about an animal's quality of life. The aim of good welfare is to provide animals with the conditions that allow them to behave much as they do in nature. Studies of dog ethology provide valuable guidance and criteria for welfare. Welfare is therefore measurable and a scientific evidence-based approach is needed when improving animals' well­being.

     Ethics, in contrast, deals with what is good and right in life from the human point of view. Animal ethics deals with what is held by a particular group of people to be sufficiently good in animal life and what is a correct human action in relation to animals. Different animal ethical standards are applied in different societies. The situation becomes more complicated when society has a multicultural background, where the view of certain part of the society on animal ethics differs greatly from another group. In Westem European democracies the view of the majority of the citizens is taken into account and freedom of speech gives opportunity to others to express their opinions in discussions to influence the view of the majority. It is a process of constantly evolving the ideas, where different ethical views are present, and consensus may be reached only after a very long time. The final ethical view is written, codified and enforced by regulatory authorities, given their power by elected governments representing the majority of the people. Ethics is a product of thousands of years of history, where ideas developed in the past are mixed together in the contemporary mix of global cultures. It is not something we can measure.

特集2 背景データ
  • Preclinical Services, Montreal Charles River Laboratories,
    原稿種別: other
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 116-120
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
    解説誌・一般情報誌 フリー

     Charles River Laboratories, Preclinical Services, Montreal (PCS-Mtl) can conduct dog toxicokinetic, toxicology and safety pharmacology studies in neonatal, juvenile, young adult and / or sexually mature dogs. These studies can be treated by a full range of dose routes and contain a comprehensive array of assessments.

     The dog is the most commonly used non­-rodent species for testing novel pharmaceu­ticals and as a result techniques, procedures and assays are generally available for the majority of requirements.

  • J KELLY, Dr C SPRINGALL
    原稿種別: other
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 121-125
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
    解説誌・一般情報誌 フリー

     Covance Laboratories Europe has performed regulatory toxicology studies in the beagle dog for over 30 years at the Harrogate facility. Prior to the introduction of the requirement to source all scientific animals from a UK recognised supplier as default, beagles were sourced from Hazleton (now Covance) Research Products in the US. Now however, approximately 80% of the beagles used at CLE are sourced from Harlan UK Ltd (Hsdf.Dobe). It is still possible to source animals from alternate suppliers with good scientific justification, thus beagles supplied by Covance Research Products and Marshall are still in use within our laboratory.

  • 株式会社イナリサーチ
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 126-128
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
    解説誌・一般情報誌 フリー
  • 株式会社富士バイオメデイックス
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 129
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
    解説誌・一般情報誌 フリー
  • Steven J Crome MSc
    原稿種別: other
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 130-134
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
    解説誌・一般情報誌 フリー

     The first attempts to bring some order to the toxicological testing of new drugs came in the 1940s. There was then a lull, before the publication of detailed regulatory guidelines to define test methodology began in the 1960s. The dog, almost exclusively for the last several decades, the beagle, became the principal non-rodent species used in toxicology, this being more formalised in writing (but not as official guidelines) in Europe in 1965 and in the USA in 1977 (see Zbinden [16]). It is not within the scope of this short paper to give a full description of the advantages and the disadvantages of the dog and there any many such papers already available (4, 9, 12) as well as papers reviewing animal/human concordance in toxicity prediction (see 8 and references therein). In this paper, I shall attempt to summarise and discuss some of the data available at Huntingdon Life Sciences and other topics of debate and recent advances surrounding the use of the dog. To provide a source of reference, I shall also make short comments on other reviews to which the researcher may wish to refer.

     Greaves et al (5) provide a recent summary of papers discussing the correlation between observed animal and human toxicity for major drug classes and organ systems. They conclude that the dog is better predictor of human adverse effects than rodents or monkeys based on the particular papers they have reviewed, being particularly useful in predicting gastroin­testinal toxicity but over-predicting hepatic and renal toxicity. It is interesting to note however, that a number of these key papers were published in the 1960s and there seems to be a relative lack of more recent critical reviews of this subject. One of the newer papers cited is by Olson et al (8) describing the outcome of a pharmaceutical industry initiative on this subject and an International Life Sciences Institute work­shop in 1999 at which working parties were ask to identify modified testing strategies which may improve non-clinical screening of drugs in development. They concluded that the dog is often selected with insufficient consideration of whether it is pharmacodynamically, physiologically, biochemi­cally or metabolically the best choice, but they could recommend no alternative species widely applicable in general toxi­cology to replace the dog.

     There is a notable change of emphasis between papers written prior to the mid-1990s and those written more recently concerning the dog. When discussing the disadvantages of the dog, older papers do so from the position that the dog was the only widely used non-rodent species (primates such as rhesus, cynomolgus and marmosets being used in regulatory toxi­cology but expensive and not easy to obtain) and so the disadvantages had to be allowed for and coped with. Newer papers make much greater reference to the need for the use of pharmacodynamically rele­vant species and to the newer available models, particularly the minipig.

  • 日精バイリス株式会社
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 135-136
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
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    高頻度ペーシング誘発イヌ心不全モデル

     中動物における慢性心不全モデルの内、広く使用されている高頻度ペーシング誘発心不全モデル(拡張塑心筋症)について、背景データを集計した。

特集3 光毒性
  • 堀井 郁夫, 内田 力
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 137-151
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
    解説誌・一般情報誌 フリー

     薬物が誘導する光毒性は、皮膚あるいは目が光(UVあるいは可視光)に曝露することにより誘発される薬物反応である。Systemicあるいはtopicalいずれの投与形態においても起こり得る薬物反応であるが、UVによる活性化が必要となるため、皮膚や目といった光照射を受ける組織への薬物移行が必須となる。一般的に、光毒性は、病因、臨床学的特徴、病理組織学的知見に基づいて光毒性(刺激)、光アレルギー、光遺伝毒性(光癌原性)に大別される(図1)。光毒性は、殆どの光アレルゲンや光トキシンがUV-A領域で活性化されて誘発される。薬物誘発型光過敏症のサブタイプとして、皮膚異常変色、偽ポルフィリン症、光爪剥離症、類苔癬(lichenoid)、毛細血管拡張症(telangiectatic)などが挙げられるが、光毒性は光アレルギーよりも高頻度で起こり得る1)

  • 田村 藍, 安 然, 古川 朋佳, 石川 智久
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 152-162
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
    解説誌・一般情報誌 フリー

     近年、薬物の光毒性、薬物による光線過敏症が注目されている。光線過敏症とは、日常に浴びる程度の日光により、発赤、浮腫、発疹など健常皮膚に異常反応を生ずる場合をいう。その原因は、代謝異常・免疫異常などの内因的なものと薬物などの化学物質が関係する外因的なものがあることが知られている。欧州を中心に光毒性に関する研究が盛んに行われているが、その分子メカニズムは十分に解明されていない。光線過敏症を引き起こす薬物として、向精神薬、抗ヒスタミン薬、抗菌薬、抗真菌薬、消炎鎖痛薬、降圧薬、糖尿病治療薬、抗悪性腫瘍薬、ビタミン薬など、多数が報告されている。薬の副作用は患者の生活の質(QOL)を低下させるだけでなく、薬物の使用制限にも大きく影響する。光線過敏症は薬物の重要な副作用のひとつであり、患者への投与前の薬剤開発段階において光毒性を予測する評価系の確立が求められている。

     ヒトABC(ATP-Binding Cassette)トランスポーターのひとつであるABCG2は細胞内のポルフィリンを輸送し、細胞内ポルフィリン濃度の調節に重要な役割をする。ポルフィリンはヘムの前駆体であり生体に必要不可欠な生体色素であるが、光を吸収して励起し活性酸素を生ずる光増感物質としての化学的特徴を持つ。光線過敏症を引き起こすメカニズムのひとつとして、ABCG2の輸送機能の阻害・障害によるポルフィリンの蓄積が考えられる。本稿では、薬物による光線過敏症の概説に加え、このABCG2に着目した光毒性の新しい側面を紹介する。

特集4 市販前から市販後までの医薬品リスクマネジメントシステム 第2弾-セーフティーサイエンスへのアプローチー
  • 佐藤 淳子
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 163
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
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     医薬品のリスクマネジメントにおいては、製薬企業、行政、医療従事者など医薬品に係わるあらゆる者の英知を有効活用していくことが重要である。製薬企業と言うと、臨床開発部門や安全性管理部門が、まず頭に浮かぶことであろうが、決して、これらの部門のみではない。臨床で認められた副作用の回避方法のヒントが、毒性試験や安全性薬理試験から認められることも少なくない。製薬企業には、豊富な知識を有するトキシコロジストをはじめとした非臨床担当者が在籍しているにもかかわらず、臨床での発現した副作用の検討などには係わる機会は少ないという声も耳にする。これでは宝の持ち腐れである。特に、安全性については、多角的な視野から検討を行うことが重要であり、臨床担当者のみならず、非臨床担当者の知識も有効活用されるべきである。

  • Stewart Geary, M.D.
    原稿種別: other
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 164-165
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
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     Much of the information on adverse drug reactions in package inserts, both in Japan and elsewhere, is fundamentally uncertain. In most cases we do not know the exact mechanisms of adverse reactions, we are seldom in a position to predict with any confi­dence which patients are most at risk --or their degree of risk --of experiencing specific adverse reactions and even after an adverse event is observed we are usually uncertain about the extent to which it is truly attributable to drug exposure. A central goal of the PV working group is to contribute to the scien­tific understanding of the mechanisms behind adverse reactions to drugs, in part by furthering the collaboration of nonclinical and clinical professionals in drug safety. With this overall goal in mind this symposium examined the interactions between nonclinical and clinical professionals within Japan, introduced a significant new project on the international stage to look at genetic factors related to two categories of significant adverse reactions, and presented the perspective of regulators in Japan on drug safety management. This symposium also benefited from the active support and cooperation of the Japanese Association of Pharmaceutical Medicine (JAPhMed).

  • -重篤副作用における副作用メカニズムの解明-サイエンスベースのアプローチにおいて非臨床に期待すること
    原 満良
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 166-184
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
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     医薬品のライフサイクルを通したリスクマネジメントシステムの構築に関する各製薬企業の取り組みについて、特に非臨床安全性からのアプローチに関してPV分科会が実施したアンケートの結果は、2007年第34回日本トキシコロジ一本学会・シンポジウムで発表された。その結果、国内での開発段階からのリスクマネジメントが、今後の検討課題であることが明らかとなった。市販前から市販後までリンクしたセーフティーサイエンスの可能性について、現状と今後の課題を更に明らかにする目的で、日本製薬医学医師連合会(JAPhMed)会員にアンケート調査を実施した。

  • Arthur L. Holden
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 185-194
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
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    要旨: The International Serious Adverse Event Consortium(SAEC)は薬剤性の重篤な有害事象(SAE)の予測に有用なDNA変異の特定と検証のために設立された。SAECは先進的なグローバル製薬企業、学術研究機関により構成される非営利の組織であり、米国食品医薬品局(FDA)から科学的かつ戦略的な助言を得ている。本稿では、SAEC設立の経緯、新規研究構想の現状、現行の研究手法と限界、さらに効率的かつ効果的なSAE研究を進めるための有望な新規ソリューションについてとりまとめた。

    SAECの初期研究は、薬剤性肝障害(drug-related liver toxicity : DILI)および重篤皮疹(serious skin rash : SSR)に関連する遺伝子マーカーの特定に主眼を置いている。SAECは、参加会員の製薬企業および学術研究機関よりSAEサンプルおよびデータを収集する。特性が十分明らかな症例を対照症例と比較することにより、これらのSAE発現に関与し得る遺伝子変異を特定する。このような遺伝子変異の特定はリスクのある患者集団を特定することにもなるため、より安全な薬剤を開発する上で重要である。

    SAECは、この重要な領域において研究をさらに推進するために民間研究機関および政府研究機関との国際的な連携(特に日本との)を模索中である。

  • 川原 章
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 195-200
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
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     現在、我が国においては、抗癌剤やムコ多糖症の治療薬剤に象徴されるように、ドラッグラグの問題を克服していかなくてはならない状況が存在する。未承認薬に対する応急的な対応措置もあり、現時点では事態は改善に向かっていると考えられるが、このことは欧米で先行開発された薬剤の我が国への導入が遅延していることを示しており、我が国の医薬品開発国としての地位が危機的状況に近づいている恐れがあることを意味している。

  • 中山 直樹, 茨田 享子, 菅井 象一郎, 丹 求, 恒成 一郎, 佐々木 正治 , 海野 隆, 松本 一彦
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 201-209
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
    解説誌・一般情報誌 フリー

     第35回日本トキシコロジー学会(JSOT2008)ワークショップでは、製薬企業で安全性を統括する立場(JAPhMedの原先生)、副作用メカニズム解明のための国際プロジェクトSerious Adverse Event Consortium(SAEC)の代表(Dr. Holden)、規制当局で安全性を統括する立場(医薬品医療機器総合機構の川原章先生)からの見解を得て、非臨床/トキシコロジー、安全性担当医師、安全性情報関係者、規制当局および学術関係者が一同に会して共に『非臨床、臨床/市販後が連携してヒトでのリスク低減化に取り組む体制を構築して行くためには何を解決すべきか』について討論を行った。

     JSOT2008ワークショップのオーガナイザーは、昨年のJSOT2007シンポジウムに引き続き、佐藤淳子先生(医薬品医療機器総合機構、審査役)、E. Stewart Geary先生(エーザイ、JAPhMed)、さらに本年はPV分科会からの代表として丹求氏が務めた。佐藤淳子先生はICH E2E、CIOMSVI/VIIさらにICH E2Fの運営委員としてご活躍されており、 E. Stewart Geary先生はCIOMSVIIやDIAなどにおける座長を務められるなど国際経験豊富な企業の国際医師である。丹求氏は企業において安全性情報に関する業務に携わり製薬協などで活躍されている。

     本稿は、PV分科会が安全性評価研究会の会員から収集した意見とJSOT2008ワ ークショップの総合討論において述べられた意見をトキシコロジストの見解として纏めたものである。安全性評価研究会会員からの意見収集に先立ち、同研究会春のセミナー(大阪、2008/05/24)でJAPMedの先生方に対するアンケート途中集計結果を会員へ紹介しており、今回集約した意見は主にこのアンケート結果に対するものである。なお、発言者の氏名、所属、発言内容に登場する個人名は全て削除している。また、トキシコロジストの“生の声”を伝える目的で、収集した意見は可能な限り原文を掲載した。

     本稿の構成は、1.トキシコロジストの意見集約結果、 2. JSOT2008ワークショップにおける総合討論及び総合討論後に会場から回収した意見、3. 全体を通してのPV分科会の感想及び考察となっている。

  • 丹 求
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 210-211
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
    解説誌・一般情報誌 フリー

     医薬品のリスクマネジメントの目的は、薬のリスクを評価し、それを最小化する方策を取ることによって、その薬のリスク・ベネフィットのバランスを向上させることにある。薬に関わるリスクといっても多岐に渡るが、最も重要なものは副作用であろう。昨年に引き続いて、本年の日本トキシコロジ一学会でも、「市販前から市販後までの医薬品リスクマネジメントシステム」と題してワークショップが開かれた。ここで議論された医薬品のリスクというのも、副作用が中心である。

  • 今村 恭子
    原稿種別: その他
    2008 年 2008 巻 11 号 p. 212-213
    発行日: 2008/12/10
    公開日: 2024/02/20
    解説誌・一般情報誌 フリー

     近年では国際的なドラッグラグ解消の見地から国際同時開発が推進されるようになり、安全性監視を市販後のみに限定することなく、市販前から市販後まで連携した新しいリスクマネジメントシステムの重要性が認識されつつある。また、第2世代、第3世代の抗体医薬品、核酸医薬品等の新たな開発が進行する中、従来の非臨床評価系のままではヒトに対する安全性担保が難しくなってきており、方法論にも変革が迫られている。安全性の問題で開発から脱落する医薬品の中には、適切な使用と副作用メカニズムの解明で“患者さんにとって安全で有効な医薬品”となり得るものもあるはずで、ますます困難を極めつつある医薬品開発の効率改善の面からも重要な課題である。

毒性質問箱
編集後記
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