谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
特集2 毒性試験の温故知新イヌの毒性試験
5. ビーグル犬におけるシトクロムP450の遺伝的多型-安全性評価に及ぼす可能性-
神村 秀隆天水 大介
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2008 年 2008 巻 11 号 p. 100-110

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抄録

 駆虫薬の一種インベルメクチン(ivermectin)をコリー犬に投与すると、投与された個体の30~40%が痙攣を起こすことが知られている。その原因として、痙攣を起こしたイヌにおいては、脳内に移行したインベルメクチンを血液側に汲み出すトランスポーターのMDR1(P-糖タンパク)が遺伝的に欠損していることが見出された1)。また、白血病の治療薬である6-メルカプトプリン等のチオプリンを代謝するthioprine S-methyltansferaseのヒトの遺伝子には多くの変異体が存在するが、イヌにおいてもthioprine S-methyltansferaseの遺伝子欠損が同種の薬物による重篤な副作用を惹起することが報告された2)

 投与された薬物がその薬理作用あるいは副作用を示すには、それらが体内循環に乗って作用発現部位に到達することが必要である。経口投与された薬物の場合、消化管で吸収された後、小腸ならびに肝臓での初回通過代謝を受けて体内循環に入り標的臓器に到達する。そして、再び肝臓等の代謝臓器、あるいは腎臓等の排泄臓器に移行して消失する。その為、薬物の輸送あるいは代謝等に関与する蛋白に変異があると、投与された薬物の体内動態が変化し、その作用に大きな影響が現れる(図1)。

 上述のインベルメクチンの例は脳での薬物輸送蛋白、チオプリンの例は抱合代謝の為の転移酵素の変異によるものである。これらは、薬物の安全性が遺伝子変異により影響を受ける典型的な例であるが、この様な事例はイヌにおいては、それほど多く報告されてこなかった。しかし、最近になって従来遺伝的に均質と考えられてきた実験用ビーグル犬において、薬物代謝で最も重要な役割を担う酵素群であるシトクロムP450(CYP)の一部欠損によると考えられる血漿中薬物濃度の極端な変動が相次いで報告された3)。これらの血漿中濃度の変動が及ぼす薬理作用あるいは安全性に関する情報は限られるが、多大な影響を及ぽすことは容易に推測される。本稿では、ビーグル犬のCYPの遺伝的多型に関し、その概要と安全性評価に及ぽす可能性について述べてみたい。

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© 2008 安全性評価研究会
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