2008 年 2008 巻 11 号 p. 89-99
血中における alanine aminotransferase (ALT, GPT) 及び aspartate aminotransferase (AST, GOT) 活性は、臨床及び非臨床において肝機能パラメータの一つとして古くから測定されてきた。特に、肝細胞壊死などの重篤な肝障害の発現に伴い、これらのトランスアミナーゼの活性は血中で顕著に上昇する。
一方、毒性試験において血中トランスアミナーゼ活性の上昇がみられるものの、alkaline phosphatase (ALP)、lactate dehydrogenase (LDH)、総ビリルビン (T-BIL)、アルブミンあるいは凝固系 (APTT, PT)といった他の肝逸脱酵素あるいは肝機能パラメータの変化や、肝臓に臓器毒性を示唆する明らかな病理組織学的変化が認められないケースにしばしば遭遇する。過去の毒性質問箱のQ&Aにおいてもこのような事例がいくつか紹介されている。また、臨床試験においても血中トランスアミナーゼ活性の軽度な上昇が認められるものの、他の肝逸脱酵素や肝機能パラメータに変化がみられず、投薬中であっても酵素活性が正常値に戻るケースもある。
トランスアミナーゼは肝臓以外の臓器にも広く存在し、血中トランスアミナーゼ活性は、肝障害以外にも図1に示すような栄養学的あるいは内分泌学的要因など様々な要因で変動することが知られている。非臨床試験や臨床試験において肝障害を示唆する明らかな変化を伴うことなくトランスアミナーゼ活性が特異的に上昇した場合、これらの要因と酵素活性上昇との関連を解析することはその毒性学的意義を考察する上で重要である。
本稿では、トランスアミナーゼの臓器分布、機能、その活性に影響を与える種々の要因について概説し、薬剤投与時に肝障害を示唆する明らかな変化が認められず血中トランスアミナーゼ活性が特異的に上昇する機序について考察する。また、この考察の中では、イヌで特にこのような現象が起こりやすいことを紹介するとともにその機序についても考察する。