谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
〈オムニブラー〉
3.造血因子エリスロポエチンに関わる研究の進展-多様な生理活性と医薬品開発-
永尾 雅哉
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2011 年 2011 巻 13 号 p. 127-132

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抄録

はじめに

 エリスロポエチン(erythropoietin, EPO)は赤血球造血因子であり1)、腎性貧血患者の貧血治療薬として、大成功を収めたバイオ新薬である。EPOは主として赤血球前駆細胞であるcolony forming-unit erythroid(CFU-E)に作用し、その増殖・分化・生存促進因子として機能することで、赤血球量を調節する。EPOは胎児では肝臓で、成体では腎臓で産生され、骨髄中に存在する前述の赤血球前駆細胞に作用する。EPOの主要な産生制御因子は低酸素である。即ち、大量の出血や酸素の薄い高地において酸素不足に陥ると、末梢への酸素供給が低下するため、EPOを発現させて、酸素を運ぶ赤血球量を増やそうとする機構が働く。このEPOの腎臓での低酸素誘導は後で述べるように一過的であり、必要以上に赤血球を作り続け、血管に血球が詰まることがないように制御されている。ところがスポーツ界ではEPO投与により、運動に際して利用できる酸素量を増やすことで、目に見えてパフォーマンスが上昇するため、ドーピング薬として使う場合があり、下手をすると赤血球が増えすぎて、血管につまり、心筋梗塞により命を落とすことになる。なお、後述のようにEPOは神経栄養因子、血管形成促進因子としても機能し、それに応じた組織でも産生され、目的に応じた発現制御を受ける。

 さて、EPOは糖タンパク質であり、糖鎖末端のシアル酸が血中安定性、in vivoでの活性に重要な働きをするため、組換え体EPOを生産するにあたり動物培養細胞を用いる必要がある。なお、糖鎖はヘテロジェニティーがあるため、組換え体の品質管理には苦労を要する。

 本稿ではEPO遺伝子のクローニングに始まり、組換え体の生産、EPOの新機能、改変型EPOの生産など、EPOをめぐる一連の研究の進展について概説する。また後半ではEPOの低酸素依存的発現に関わるHypoxia-inducible factor(HIF)について、簡単に触れることにする。

 なお、EPOに関しては良い総説、書籍があるので、興味をお持ちの方はそちらをご覧頂きたい1-3)。また本稿では概要を把握して頂くことを目的としているため、参考文献には日本語の総説や、オリジナル論文よりも最近の総説を記載したケースがあることをご了解頂きたい。

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© 2011 安全性評価研究会
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