谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
〈オムニブラー〉
2.染色体工学技術による医薬品開発のためのヒト化モデル動物の開発
香月 康宏押村 光雄
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2011 年 2011 巻 13 号 p. 124-126

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抄録

はじめに

 トランスジェニック技術は、遺伝子を破壊または導入し、その表現型を解析することにより、遺伝子がどのような機能を持つかを知る上で非常に重要な技術となっている。しかし、クローン化DNA断片を使用するこれまでのトランスジェニック技術では、細菌人工染色体(BAC)を用いても導入可能なDNAは通常100kbが限界であり1)、哺乳動物の遺伝子としては珍しくない1Mb、あるいはそれを超える大きさを持つ遺伝子や遺伝子クラスターの導入は不可能であった。哺乳動物の遺伝子は制御領域も含めると数百kb以上に及ぶことが多く、それらの全てを含むDNA領域を導入できないため、遺伝子本来の発現を量的・質的に本来の生理的発現パターンに再現できなかった。これらの問題を解決するために、巨大なヒト遺伝子、複数のヒト遺伝子を比較的安定な形で導入可能である微小核細胞融合法(Microcell-Mediated Chromosome Transfer; MMCT)を用いて2)、単一ヒト染色体あるいはその断片をマウス胚性幹(ES)細胞へ導入し、そのES細胞からキメラマウスを作製することにより、10Mb以上の機能的なヒト染色体断片を保持するマウスの作製、子孫への伝播が可能となった3)。これによりin vivoでのヒト遺伝子の機能解析と巨大なヒト遺伝子を保持する「ヒト型」モデル動物の作製が可能となった。さらに最近では動物個体で安定に維持できるヒト人工染色体(human artificial chromosome; HAC)の開発により4,5)、遺伝子機能を明らかにするためのツールが整ってきた。本稿ではヒト染色体導入マウスの作製方法、ヒトCYP3A遺伝子クラスター導入マウスの医薬品開発への利用の可能性について紹介する。

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© 2011 安全性評価研究会
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