谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
〈特集1〉心毒性
4.国内臨床試験における心臓安全性評価の現状と将来
熊谷 雄治
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2012 年 2012 巻 14 号 p. 20-35

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抄録

 薬物の有害反応は劇症肝炎や横紋筋融解症のように発現頻度は高くないものの発現した場合には致死的であるものと、発現頻度は高いが重症度は低い一般的な反応に大別される。

 この2つはいずれも薬物治療の上で重要な問題であるが、発売中止に至った薬物の多くはむしろまれな有害反応が原因で姿を消している(表1)。発現頻度が低いものは一般的な臨床試験に含まれる症例数から直接の発現を予測することが困難であるため、なんらかの代替指標を用いて予測する必要がある。心臓安全性は生命へ直接関係するものであり、安全性の予測が特に重要であるが、最近の臨床試験における心臓安全性評価は直接の検出ではなく、代替指標を用いた予測を行うものが主流となっている。その代表的なものが致死的な不整脈であるTorsade de Pointes (TdP) の危険因子である心電図QT延長である。

 QT延長は、Romano-Ward症候群や聾唖を伴うJavell and Lange-Nielsen症候群のような先天的QT延長症候群と後天的なものとして種々の病態や薬物によるQT延長が知られている。心室頻拍は頻度は高くないものの出現した際には致死的な病態であり、薬物有害反応として生ずる可能性があれば、該当薬物の使用には注意が必要である。米国で1990年から2006年までの間に安全性の問題により販売を中止した薬剤は38種類であるが、その約1/3はTdP、あるいはQT延長作用が原因のものであったと報告されており1)、我が国でも、テルフェナジン、アステミゾール、シサプリドがQT間隔延長に基づくTdPの出現により市場から姿を消している。QT延長を来す薬物の多く(表2)は精神疾患治療薬や抗ヒスタミン薬、消化器疾患治療薬などであり、抗不整脈以外の薬物が含まれている。すなわち循環器専門家以外が一般診療の中で使用する薬剤、端的に言えば鼻づまりや胸焼けの治療に用いた薬が致死的な不整脈を起こすという意味で、特に重要である。新薬の開発においても、薬物の潜在的な危険性をあらかじめ検討する目的で、治験の段階でQT延長作用が検討されている。日本では、2010年11月にICH-E14ガイドライン「非抗不整脈薬におけるQT/QTc間隔の延長と催不整脈作用の潜在的可能性に関する臨床的評価について」2)に基づき、データの収集が必須のものとなっている。QT延長以外にも、血圧、心拍数の変化が長期予後へ関与する可能性が知られており、糖尿病などの動脈硬化性疾患のリスクが高い疾患では薬物の循環器系へおよぼす影響の検討が求められはじめているが、本稿では多く施行されているQT間隔を検討する臨床試験について主に述べてゆく。

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© 2012 安全性評価研究会
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