2012 年 2012 巻 14 号 p. 13-19
安全性薬理試験については、日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)においてICH S7A安全性薬理試験ガイドラインが最終合意され、日本では2001年に「安全性薬理試験ガイドラインについて」(平成13年6月21日医薬審発第902号)として厚生労働省より通知された。本ガイドラインは人に用いる新規化学物質およびバイオテクノロジー応用製品に対して一般に適用される。安全性薬理コアバッテリー試験の目的は生命機能における被験物質の作用を検討することにあり、心血管系、呼吸系および中枢神経系が通常コアバッテリーで試験するべき生命維持を司る器官系とされている。ICH S7Aガイドラインでは、慢性的にテレメトリーシステムを装着した無麻酔、非拘束動物から得られたデータが望ましいとされ、その中で心血管系に対する作用は、通常イヌまたはサルを用い、非侵襲的な測定法(例えばテレメトリー法)により心拍数、血圧および心電図が評価される。
安全性薬理試験が不要な条件として、以下の二つがICH S7Aガイドラインに記載されている。一つ目は、末期がん患者の治療のために用いる細胞毒性薬剤においては、ヒトに最初に投与する前に行う安全性薬理試験は不要であると記載されている。二つ目は、特異的受容体に対し高度に標的化を成し遂げたバイオテクノロジー応用製品においては、毒性もしくは薬力学的試験の一部分として安全性薬理エンドポイントを評価することで十分な場合がしばしばあり、安全性薬理コアバッテリー試験を削減または省略することが出来ると記載されている。しかしながら、新しい作用機序を有する細胞毒性薬剤や新規治療分類を代表する薬剤もしくは高度な受容体特異性が得られていないバイオテクノロジー応用製品については、安全性薬理試験によるより詳細な評価が考慮されるべきとの補足もされていることから、慎重に判断する必要がある。
また、ICH M3(医薬品の臨床試験および製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス)が改正され、安全性薬理試験について、使用動物を削減するため、in vivoで評価する場合には、いずれも、可能な範囲内で、一般毒性試験に組み込んで実施することを考慮すべきである、と記載された。このため、安全性薬理試験エンドポイントの一般毒性試験への組み込みが議論される機会が多くなってきた。
心血管系の安全性薬理試験の現状としては、独立した安全性薬理試験において、外科的手術によりテレメトリー送信器を埋め込んだ動物を用いて、無麻酔、非拘束条件下にて血圧、心拍数および心電図を評価している。
このテレメトリー法を一般毒性試験に組み込むには、以下のような問題点がある。
・外科的手術が必要となり、毒性評価への影響が懸念される。
・全例に送信器を埋め込む場合、埋め込みのための時間および費用がかかる。
・全例に送信器を埋め込まない場合、どの群に埋め込むかなどで試験デザインおよび毒性評価が難しくなる。
・テレメトリー測定用の専用ケージおよび実験室が必要である。
・同時に測定できる匹数に制限がある。
上述したように通常、安全性薬理試験で実施しているテレメトリー法をそのまま一般毒性試験に組み込むのは困難であり、別のテクノロジーを使用した方法を考慮する必要がある。本稿では、安全性薬理試験における心血管系の評価を一般毒性試験に組み込む方法を紹介するとともに、組み込む際の課題・問題点を紹介する。