谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
2012 巻, 14 号
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はじめに
〈特集1〉心毒性
  • 杉山 篤
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 1-4
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
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    1.薬物性心毒性とは

     薬物により誘発される心毒性は、心臓だけにとどまらず循環器系全体に引き起こされる病態を意味し、以下の3つの特徴を有する1)。①循環器系は各種の調節機能で支えられているので、薬物により細胞レベルで異常が生じたとしても多少の異常は代償され、心臓の機能異常としては表現されにくい。②循環器系の変化を通じて他の器官、特に肺や腎などに続発的な影響をおよぼすことがある。③逆に心血管系に直接の作用がなくても、薬物が中枢神経系、自律神経系あるいは内分泌系に作用し、それらの器官の変化を通じて心血管系に悪影響をおよぼすことがある。薬物が原因である機能的な心毒性としてQT延長症候群があるが、それ以外には変力作用、変時作用および変伝導作用が挙げられる。本稿では、ポストQTとしてまず対応すべき課題としてNa+チャネル抑制に起因する心ポンプ機能障害を取り上げ、その位置づけ、発生機序、in vitroおよびin vivoモデルでの評価および回避のための戦略を紹介する。

  • 秋江 靖樹
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 5-12
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
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    1. 実験動物としてのブタを取り巻く環境

     一般的に非臨床試験ではラット、マウスなどのげっ歯類とウサギ、イヌ、サルなどの非げっ歯類が用いられている。げっ歯類は入手しやすく、取り扱いが容易なうえ、試験データが豊富であるため多用されているが、試験データのヒトへの外挿を考えると非げっ歯類、特にサルでの試験は重要である。しかし、常に動物実験と一緒に語られるのが、動物愛護の問題である。近年、動物愛護の意識が高まり、非臨床試験に身をおく者としては避けて通れない問題となっている。ラット、マウスは実験動物として生産されているうえに、野生種は害獣として駆除の対象となっているが、ウサギ、イヌ、サルはペットとしても身近であり、動物実験に供することへの風当たりは強い。このような背景のもと、食肉用の産業動物であるブタが実験動物として注目されている。

     欧米では実験動物としてのブタは使用数でもイヌやサルと同程度に用いられているが、日本での認知度はまだ低い。ブタはその生理学的・解剖学的特徴がヒトに近いとされており、これまでも心血管、消化器、皮膚科領域の評価に用いられてきた。社団法人日本実験動物協会が公表している平成22年度の実験動物の年間販売数では、イヌが8,326匹、サルが3,032匹に対して、ブタは1,613匹と少数である。しかし、平成19年の販売数と比較すると、イヌ(▼32.7%)、サル(▼12.4%)、ラット(▼14.9%)で減少しているにもかかわらず、ブタだけが増加(△24.0%)している1)表1)。日本においても少しずつ実験動物として利用される機会が増えていると思われる。

  • 亀之園 剛 , 桑野 康一, 福﨑 好一郎
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 13-19
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
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     安全性薬理試験については、日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)においてICH S7A安全性薬理試験ガイドラインが最終合意され、日本では2001年に「安全性薬理試験ガイドラインについて」(平成13年6月21日医薬審発第902号)として厚生労働省より通知された。本ガイドラインは人に用いる新規化学物質およびバイオテクノロジー応用製品に対して一般に適用される。安全性薬理コアバッテリー試験の目的は生命機能における被験物質の作用を検討することにあり、心血管系、呼吸系および中枢神経系が通常コアバッテリーで試験するべき生命維持を司る器官系とされている。ICH S7Aガイドラインでは、慢性的にテレメトリーシステムを装着した無麻酔、非拘束動物から得られたデータが望ましいとされ、その中で心血管系に対する作用は、通常イヌまたはサルを用い、非侵襲的な測定法(例えばテレメトリー法)により心拍数、血圧および心電図が評価される。

     安全性薬理試験が不要な条件として、以下の二つがICH S7Aガイドラインに記載されている。一つ目は、末期がん患者の治療のために用いる細胞毒性薬剤においては、ヒトに最初に投与する前に行う安全性薬理試験は不要であると記載されている。二つ目は、特異的受容体に対し高度に標的化を成し遂げたバイオテクノロジー応用製品においては、毒性もしくは薬力学的試験の一部分として安全性薬理エンドポイントを評価することで十分な場合がしばしばあり、安全性薬理コアバッテリー試験を削減または省略することが出来ると記載されている。しかしながら、新しい作用機序を有する細胞毒性薬剤や新規治療分類を代表する薬剤もしくは高度な受容体特異性が得られていないバイオテクノロジー応用製品については、安全性薬理試験によるより詳細な評価が考慮されるべきとの補足もされていることから、慎重に判断する必要がある。

     また、ICH M3(医薬品の臨床試験および製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス)が改正され、安全性薬理試験について、使用動物を削減するため、in vivoで評価する場合には、いずれも、可能な範囲内で、一般毒性試験に組み込んで実施することを考慮すべきである、と記載された。このため、安全性薬理試験エンドポイントの一般毒性試験への組み込みが議論される機会が多くなってきた。

     心血管系の安全性薬理試験の現状としては、独立した安全性薬理試験において、外科的手術によりテレメトリー送信器を埋め込んだ動物を用いて、無麻酔、非拘束条件下にて血圧、心拍数および心電図を評価している。

     このテレメトリー法を一般毒性試験に組み込むには、以下のような問題点がある。

    ・外科的手術が必要となり、毒性評価への影響が懸念される。

    ・全例に送信器を埋め込む場合、埋め込みのための時間および費用がかかる。

    ・全例に送信器を埋め込まない場合、どの群に埋め込むかなどで試験デザインおよび毒性評価が難しくなる。

    ・テレメトリー測定用の専用ケージおよび実験室が必要である。

    ・同時に測定できる匹数に制限がある。

     上述したように通常、安全性薬理試験で実施しているテレメトリー法をそのまま一般毒性試験に組み込むのは困難であり、別のテクノロジーを使用した方法を考慮する必要がある。本稿では、安全性薬理試験における心血管系の評価を一般毒性試験に組み込む方法を紹介するとともに、組み込む際の課題・問題点を紹介する。

  • 熊谷 雄治
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 20-35
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
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     薬物の有害反応は劇症肝炎や横紋筋融解症のように発現頻度は高くないものの発現した場合には致死的であるものと、発現頻度は高いが重症度は低い一般的な反応に大別される。

     この2つはいずれも薬物治療の上で重要な問題であるが、発売中止に至った薬物の多くはむしろまれな有害反応が原因で姿を消している(表1)。発現頻度が低いものは一般的な臨床試験に含まれる症例数から直接の発現を予測することが困難であるため、なんらかの代替指標を用いて予測する必要がある。心臓安全性は生命へ直接関係するものであり、安全性の予測が特に重要であるが、最近の臨床試験における心臓安全性評価は直接の検出ではなく、代替指標を用いた予測を行うものが主流となっている。その代表的なものが致死的な不整脈であるTorsade de Pointes (TdP) の危険因子である心電図QT延長である。

     QT延長は、Romano-Ward症候群や聾唖を伴うJavell and Lange-Nielsen症候群のような先天的QT延長症候群と後天的なものとして種々の病態や薬物によるQT延長が知られている。心室頻拍は頻度は高くないものの出現した際には致死的な病態であり、薬物有害反応として生ずる可能性があれば、該当薬物の使用には注意が必要である。米国で1990年から2006年までの間に安全性の問題により販売を中止した薬剤は38種類であるが、その約1/3はTdP、あるいはQT延長作用が原因のものであったと報告されており1)、我が国でも、テルフェナジン、アステミゾール、シサプリドがQT間隔延長に基づくTdPの出現により市場から姿を消している。QT延長を来す薬物の多く(表2)は精神疾患治療薬や抗ヒスタミン薬、消化器疾患治療薬などであり、抗不整脈以外の薬物が含まれている。すなわち循環器専門家以外が一般診療の中で使用する薬剤、端的に言えば鼻づまりや胸焼けの治療に用いた薬が致死的な不整脈を起こすという意味で、特に重要である。新薬の開発においても、薬物の潜在的な危険性をあらかじめ検討する目的で、治験の段階でQT延長作用が検討されている。日本では、2010年11月にICH-E14ガイドライン「非抗不整脈薬におけるQT/QTc間隔の延長と催不整脈作用の潜在的可能性に関する臨床的評価について」2)に基づき、データの収集が必須のものとなっている。QT延長以外にも、血圧、心拍数の変化が長期予後へ関与する可能性が知られており、糖尿病などの動脈硬化性疾患のリスクが高い疾患では薬物の循環器系へおよぼす影響の検討が求められはじめているが、本稿では多く施行されているQT間隔を検討する臨床試験について主に述べてゆく。

  • 原 満良
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 36-44
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
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     医薬品は、基本的に生物活性を持った化学物質である。もちろん、生物活性を持った化学物質の全てが医薬品になるわけではなく、何段階ものフィルタリングを経て有効性・安全性が確立したものだけが、最終的に医薬品となる。本稿をお読みのトキシコロジストの皆様の多くは、非臨床段階でのフィルタリングに従事されていることと思う。

     非臨床の段階では、検討対象となる化学物質の有毒な生物作用すなわち毒性について検討されるが、そこで見出された毒性をどのように評価するかは、最終的な医薬品の使われ方に依存する。例えば、降圧薬や高脂血症治療薬といった、生活習慣病の一次予防・二次予防に用いられる薬では、かなり高度な安全性が求められる。一方、抗腫瘍薬のような致命的疾患の治療薬で代替療法が限られる薬では、少々の肝毒性・腎毒性・発がん性などは軽く許容範囲となる。要は、ベネフィット / リスク バランスが、ベネフィット側にあれば良い訳である。

     臨床試験の段階で、有効性・安全性のハードルをクリアし、承認審査を経て晴れてデビューを飾った医薬品であっても、それで安全性が確立したというわけではない。なぜなら、臨床試験段階での症例数は少なく、多様な患者背景・患者体質・併用療法等との種々の組み合わせにおいて、十分な安全性データを収集できているとは限らないからである。

     そのため、医薬品の安全性を確保するためには、市販後の段階においても多様な情報を収集し、得られた知見に基づいて適切な安全確保を行うことが求められている。市販後は、臨床試験とはほとんど対極にあるような世界である。条件の制御された少数例(百のオーダー)の検体を詳細に調べて多様な情報を得る臨床試験とは異なり、多種雑多な多数例(万のオーダー)から得られる限定的な情報を分析して、必ずしも確実といえない結論しか得られていないとしても、市販後は迅速な措置が必要となる場合もある。

     本稿では、市販後安全対策の仕組みについて解説した後、心毒性を中心にその活動の実例を紹介する。

〈特集2〉ファーマコビジランス-Nonclinical and Clinical Joint Discussion-
  • E. Stewart Geary, M.D.
    原稿種別: other
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 45-48
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
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     The Pharmacovigilance Symposium at the 38th Annual Meeting of the Japanese Society of Toxicology (JSOT) marked another interesting exchange between scientists and physicians working in all aspects of safety science to better understand, predict and ultimately manage the safety risks to patients associated with pharmaceutical products. I would like here to offer some observations on the presentations contributed by our excellent speakers as well as highlight some ongoing international collaborations that aim to improve our work in safety science and a heuristic approach to interpreting the results of nonclinical safety studies which I have found useful as a clinical scientist.

  • 蓮沼 智子 , 中谷 比呂志
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 49-52
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
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     非臨床試験データのヒトへの外挿性については、薬剤開発において常に重要な課題である。早期臨床試験、特にFirst in Human試験において非臨床試験の結果は安全性をより効率よく確保する上で、唯一の手がかりであり、重要性は高い。

     米国にあるHESI(Health and Environmental Science Institute)のレポートによると、薬剤による副作用のうち71%は非臨床試験のデータから予測ができていたとのことである。そのうち非げっ歯類における予測性は61%であるが、げっ歯類では低く44%であったとのことである。消化管障害や血液障害、心血管障害については動物におけるヒトでの毒性予測は比較的高かったとのことだが、皮膚障害、肝障害および神経系障害についてはやや低かったとの結果が得られている1)

     前述のように71%が非臨床試験のデータから予測出来ていたとのことであるが、裏を返せば約30% の副作用については、非臨床試験では予測できていなかったということであり、このことは非臨床試験データのヒトへの外挿性の限界を浮き彫りにしている。臨床側からすると、特にFirst in Human試験に臨む場合、より外挿性の高いデータは安全性確保のためにも望まれるところである。

  • Dr. Chris Pollard
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 53-63
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
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     東日本大震災の影響が続く中、初めての試みとして海外とのteleconferenceにより、Chris Pollard氏に非臨床・臨床ジョイントディスカッションに参加頂き、心血管系リスク評価に関して3つの具体事例をあげて非臨床・臨床連携による取り組みが紹介された。(以下、当日の講演について、協力企業の了解を得てその概略を報告する。)

     * FDA、EMAおよびアカデミアにおいて心血管系の教育指導を担う経験豊富な専門家である。

  • 熊谷 雄治
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 64-67
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
    解説誌・一般情報誌 フリー

     日本毒性学会で定期的に開催されているファーマコビジランス/非臨床・臨床ジョイントディスカッションにおいて、アストラ・ゼネカのChris Pollard 先生に”Cardiovascular Safety Risk Assessment: Preclinical to Clinical Translation?”というタイトルで講演頂いた。講演の中で強調されていたように、臨床開発の戦略を決定する上で心臓安全性の評価はきわめて重要であり、非臨床データから臨床使用上の安全性の予測精度を向上させることが望まれる。また、ICHE14ガイドライン1)に基づいて行われるQT/QTc評価試験(TQT試験)をはじめとする臨床試験でのQTデータ収集の指標として非臨床データを活用すべきである。本稿ではPollard先生の講演内容を受け、臨床試験を施行する医師が非臨床データをどのようにとらえ、試験計画と施行に反映しているかを述べることにする。

  • Dr. Lutz Müller
    原稿種別: other
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 68-72
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
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     The clinical development and eventual approval for use of pharmaceuticals respectively candidate pharmaceuticals will require an evaluation of the safety in non-clinical in vitro and in vivo animal studies as well as in humans (volunteers and patients). The investigations into human safety are initially guided by non-clinical data and will then broaden to focus on evidence from humans. In this process human data may confirm or not what has been observed in vitro or in animals. In this context, it is worthwhile to enhance understanding and communication between the non-clinical and clinical safety experts to direct human safety investigations into the right area and to create understanding about the quite often limited predictive capabilities of the non-clinical studies. Further, it is of utmost importance to ensure a thorough understanding about some of the areas of safety assessment, which are not easily amenable for either side to thoroughly assess. A few of these areas shall be mentioned here:

    ・Non-clinical data are of limited value especially in the area of involvement of the immune system. The human immune system is distinctively different from that of animals. Further, the individual history of immunizations and challenges to the immune system of humans creates an immense background of variability in the human population with varying individual susceptibilities. Hence, data in animals or in vitro surrogate data from human matrices (blood, tissues) may often only serve for hypothesis generation but cannot replace directed studies into human safety in vivo.

    ・Similarly, everything that is associated with assessment and monitoring of brain function and signaling (pain, headache, mood disturbances, suicidality, etc.) is rather human specific and cannot be mimicked adequately with animal investigations. Hence, these areas will normally be exclusively evaluated based on human safety information.

    ・Conversely, teratogenicity, mutagenicity and carcinogenicity are areas of safety deemed of major importance for human use of medicines but which are only extremely difficult to be assessed in humans. Hence, safety assessment is often based on animal data a priori. But these data, if indicating risk for humans, may require an extensive, very long and costly human biomonitoring program to give an answer about human safety.

     It is apparent from the short elaboration above that the methods used by clinical safety (observational, monitoring) and non-clinical safety (experimental, directed, dose-response) are often quite different and require different sets of scientific methods and skills. Hence, a few of the different principles of both disciplines shall be mentioned below.

  • 三枝 由紀恵, 大坪 泰斗, 宇山 佳明
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 73-79
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
    解説誌・一般情報誌 フリー

     ファーマコゲノミクス(PGx)やバイオマーカー(BM)を医薬品開発に用いることで、より効果が高く、副作用の少ない医薬品の創出の促進と実現に繋がると期待される。その一方で、十分な検討を行うことなくこれらを医薬品開発に利用することは、誤った判断に繋がるおそれもあることから、医薬品開発へ広く利用する前の段階で、PGx・BMの利用目的及び範囲などの適格性を確認することが重要となる。PGx・BMを利用した医薬品開発に対する取り組みの一つとして、(独)医薬品医療機器総合機構(PMDA)は平成21年4月から「ファーマコゲノミクス・バイオマーカー相談」を創設し、これまでに非臨床試験でのラットの急性腎障害を検出するための指標として、7種類の新規尿中BMを使用することの適格性確認の評価を行なった。

  • 築舘 一男
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 80-81
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
    解説誌・一般情報誌 フリー

     非臨床・臨床ジョイントディスカッションは、非臨床と臨床の連携によりヒトのリスク低減化を目指すことを目的に、第36回日本トキシコロジー学会学術年会(2009年)「ファーマコビジランス」シンポジウム(以下本シンポジウム)において取り上げられスタートした。昨年(2011年)の同シンポジウムで3回目の非臨床・臨床ジョイントディスカッションが開催された。本年(2012年)7月には、仙台で開催予定の第39回日本毒性学会学術年会(日本トキシコロジー学会から名称変更)で4回目を数えることになる。過去3回の非臨床・臨床ジョイントディスカッションを振り返り、非臨床安全性の視点から製薬企業のメリットや変化等について触れる。

  • Dr. James H. Kim
    原稿種別: other
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 82-83
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
    解説誌・一般情報誌 フリー

     Toxicology testing is predicated on the use of animal models for the prediction of adverse effects of chemicals in humans. The assumption that experimental animals are appropriate and relevant models of human toxicity responses is difficult to fully test for many chemicals. By contrast, pharmaceuticals typically have an extensive body of toxicology data from both animals and humans that could be used to test this assumption. These data are largely unpublished and confidential, residing in the databases and files of pharmaceutical companies.

  • シンポジウムを終えて-総合討論、終了後のアンケート結果-
    日本製薬医学会[JAPhMed] , 安全性評価研究会/PV分科会
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 84-90
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
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     第38回日本トキシコロジー学会は、震災・津波と原発事故の影響が続き、リスクマネジメントの必要性に高い関心が寄せられるなか、国内外から約1,400名を集めて開催された。

     シンポジウム「ファーマコビジランス」は、日本製薬医学会(JAPhMed)及びPV分科会が連携し、非臨床と臨床の直接対話によるディスカッションの場を提供することにより、ヒトでのリスク低減化のために必要となる視点を見出すことを目的としている。このため、これまで副作用発現メカニズム解明において非臨床・臨床が協力して取り組んだ具体事例等を取り上げ、ヒトでのリスク低減化を目指したファーマコビジランスのために必要となる視点や手法について、サイエンスに基づくディスカッションを継続して行ってきた。シンポジウム3年目となる今回は、国内の動きとして薬剤誘発性肝障害(DILI)のリスク因子検証に関する臨床プロジェクトの始動及び安全性関連バイオマーカーの有用性検証と活用に向けた規制当局の新たな取り組みについて、さらに、外資系製薬企業のトランスレーショナルセーフティー部門からも話題を提供頂き、約400名以上の聴衆を前に非臨床・臨床の連携に国際的視野を加えたディスカッションが行われ、学術年会長より「極めて意義深いディスカッションである」とのコメントを頂いた。

     演者の来日が危ぶまれるなか、本シンポジウムを滞りなく開催できたことは、学術年会、JAPhMed、規制当局、企画関係企業及び会場運営の各関係者からの格別のご助言、ご支援によるものであり、深く感謝の意を表したい。

     本稿では、シンポジウム終了後に実施したアンケート結果を紹介するとともに、総合討論を振り返り、今後、シンポジウム「ファーマコビジランス」において取り組むべき課題についてとりまとめた。

  • 今村 恭子
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 91
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
    解説誌・一般情報誌 フリー

     2011年度日本トキシコロジー学会学術年会シンポジウム2ファーマコビジランス「非臨床・臨床ジョイントディスカッションによるヒトでのリスク最小化へのチャレンジ:非臨床/トキシコロジストは安全性医師と連携してサイエンス最前線の副作用リスクをどう読むか?─非臨床アプローチの組み入れが決め手となる─トランスレーショナルセーフティー」では、3月11日に発生した東日本大震災の影響を様々に受けながらも内外の講師から熱弁をいただき、万難を排して会場に参集した多くの参加者と共有することができました。あらためて、関係者の方々の多大なる努力に深く感謝申し上げる次第です。

〈特集3〉エピジェネティック毒性
  • 五十嵐 勝秀
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 92-98
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
    解説誌・一般情報誌 フリー

     化学物質の生体影響が、曝露後に時間を経て顕在化する現象を説明しうる仕組みとして、エピジェネティック毒性が注目されている。エピジェネティクスは、ゲノムDNAがヒストンに巻き付いて出来るヌクレオソームへの後天的な修飾による転写制御機構であるが、近年の研究の進展は著しく、修飾の実体、修飾を制御するタンパク質、修飾を読み取り転写制御を実行するタンパク質など、基本機構が日々解明され続けている。更に、塩基配列レベルの解像度でゲノム全体のエピゲノム状態を解析する技術も開発が進んできており、基礎研究の著しい進展を更に後押ししている。

     私の所属する国立医薬品食品衛生研究所・毒性部では、化学物質がエピジェネティック制御に関わり生体影響を及ぼす現象を「エピジェネティック毒性」として取り上げ、今後の毒性研究における重要なトピックの一つであると考えている。実際、2011年のSOT (Society of Toxicology)におけるContinuing Education Courseではエピジェネティック毒性に関するコースが2つ取り上げられた。我々も、2011年の日本トキシコロジー学会年会でのシンポジウムを皮切りに、2012年の日本毒性学会では生涯教育講演会での講義に加え、シンポジウムでもエピジェネティック毒性を取り上げ、基礎研究の進展、疾患や化学物質影響におけるエピジェネティック制御メカニズム研究について多くの方々と議論をさせて頂いた。本稿では今後、日本においてエピジェネティック毒性研究の重要性が浸透し、研究が進展することを期待し、エピジェネティック制御機構の概要、エピジェネティック毒性の特徴、エピジェネティック制御解析手法について説明したい。

〈オムニブラー〉
  • 羽生 尚広, 伊藤 拓水, 安藤 秀樹, 山口 雄輝, 半田 宏
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 99-105
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
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     サリドマイドは、近年ハンセン病治療薬、多発性骨髄腫治療薬として販売が再開されているが、半世紀にわたる研究にも関わらずその催奇性の分子機構は不明のままであった。我々は、サリドマイドが実際に結合し作用する標的タンパク質を同定し催奇性のメカニズムを分子レベルで明らかにした。

     我々はまず機能性ナノ磁性微粒子を用い、サリドマイドが直接結合するタンパク質セレブロンを同定した。セレブロンはタンパク質分解に関わる酵素複合体(ユビキチンリガーゼ)の構成因子であり、胎児の四肢の形成に重要な役割を果たしていること、サリドマイドはセレブロンに結合してこの酵素活性を阻害することがわかった。更に、サリドマイドが結合しないように改変したセレブロンの遺伝子を導入したゼブラフィッシュとニワトリでは、サリドマイドによる奇形がほとんど見られなくなることを確認し、セレブロンがサリドマイド催奇性の標的因子であることを立証した。

  • 黒田 康弘
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 106-111
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
    解説誌・一般情報誌 フリー

     バイオインフォマティクス(Bioinformatics)という用語が広く使われるようになったのはヒトゲノムプロジェクト以降のことであると思う。この用語の定義を正確に説明することは専門家に任せるとして、広義でとらえれば薬理学、毒性学、およそ薬に係る研究をするものにとっては何らかの接点をもつ学問であることは間違いないと思う。

     バイオインフォマティクスはデータと解析ツールの2つの重要な要素で成り立っていることは知られていることだが、実際に公開されているデータの内容や、さらにその運用状態については、実際にこれを必要とする現場には十分な情報が提供されていないように思われる。そこで、毒性・安全性の研究者にこれらのデータの利用方法とその意義を紹介できればというのが本文の目的である。

  • 久原 基樹, 篠原 みどり
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 112-117
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
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     モノクローナル抗体作製では、免疫原を動物に免疫、血清の力価が上昇した個体の抗体産生細胞を回収してミエローマ細胞と融合、各種スクリーニングを経て目的の抗体を産生する細胞を確立する。この時、免疫原に反応する抗体は比較的簡単に取得できるが、研究に役立つ性能をもつ抗体の作製は免疫原に反応するだけでは確立できたとは言えない。本稿では、ニワトリモノクローナル抗体作製およびファージディスプレイ技術を用いたウサギモノクローナル抗体作製を中心に抗体作製技術を紹介する。

  • 小島 史照
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 118-124
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
    解説誌・一般情報誌 フリー

     承認申請情報は、医薬品の製造販売承認申請に際して各国の審査当局に提出される薬の品質、有効性、安全性などの情報であり、非臨床の毒性や薬物動態に関する詳細な情報がまとめて入手できる数少ない情報源の1つである。さらに、審査当局から発出される照会事項やそれに対する回答が含まれており、医薬品開発の進め方や、毒性試験成績のヒトへの外挿性を考察する上で非常に有用である。著者は過去にいろいろな創薬関連部署からの調査依頼に応じてきたが、問題解決のために、これほど承認申請情報を活用しているのは毒性研究以外にはない。毒性研究担当者からの依頼の多くは、特定の毒性所見が見られた際に、同様のあるいは関連する情報の有無を承認申請情報で調べて欲しいというものである。もちろん過去事例を探し、そこで類似の毒性をどのように考察しているのか確認することは重要であるが、承認申請情報を様々な視点からマクロ的、経時的に解析することで、業界の動向や各種ナレッジを得ることなどにも活用できるはずである。にもかかわらず、そのような活用はまだまだ不十分であり、その原因の1つには最適なデータベースが整備されていないことが挙げられる。本稿では承認申請情報のマクロ的な解析を行った活用事例を紹介するとともに、国内承認申請情報の解析やノウハウ、ナレッジの抽出に必要不可欠なデータベース化について、何が必要なのかを検討したので紹介する。

  • 芳賀 敏郎
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 125-133
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
    解説誌・一般情報誌 フリー

    1.問題点

     ある企業から次のような相談を受けた。

     「4つの条件で条件毎に6匹の動物に薬剤を投与して次のようなデータが得られました。このデータをどのように解析したら良いでしょうか?」(表1

     このような質問を受けると、私は、データの取られた条件などについて根ほり葉ほり質問する。

     「それは社外秘なのでお答えできません」と言われると、「残念ながらお引き受けできません」と返事する。また、質問者が「現場の人に聞かないとお答えできません」と返事をされる場合は、「現場の人と直接情報を交換できるようにして下さい」とお願いする。現場の人との応答でもデータの背景などについて明確な情報が得られないときにも、残念ながらお断りすることになる。

     データだけでなく、質問者がどのような解析をしたかも提供してもらう。それも、結果だけでなく、計算過程も含まれる。

     コンピュータソフトの普及とともに、「xxxというソフトを使って解析しましたので、その出力を添付します」という返事が増えてきた。出力は検定結果の表だけで、ヒストグラムや散布図などは含まれていないことが多い。ということは、解析の過程の数値は全く見ず、どのような過程を経て解が導かれたかも十分に理解していないということであろう。

     これらの情報交換の中で、質問者が、データの背景と統計解析にどの位の理解を持っているかを知ることができる。

〈オピニオン〉
  • 伊藤 勝彦
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 134-141
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
    解説誌・一般情報誌 フリー

     大学時代に始まり、企業の研究職時代を通して数多くの論文や報告書を書いてきた。論文には論文独特の書き方(ルール)があり、大学時代の恩師や企業時代の上司から厳しく指導していただいたおかげで、それなりのものは書けるようになったが、ある程度の年齢になった今、もうそのような枠に縛られた堅苦しい文章は書きたくないのが正直なところである。研究職を離れて十数年、論文という研究業績を必要としない今の立場はいわば快適である。本稿ではわがままを言わせてもらい、堅苦しい論文形式ではなく、エッセイ風に書かせていただければ思う。

     さて、“わがまま”といえば、十年ほど前、英国によく通っていた頃、ロンドンを中心に爆発的に流行っている日本料理店があった。日本料理と言っても料亭のような高級なものではなく、町の定食屋さんのようなものなのだが、店名を“わがまま(WAGAMAMA)”という。この”わがまま“、日本に暮らした英国人が日本の食事に感銘を受け、それを英国でも再現しようと始めたらしい。ラーメンや味噌汁など我々が当たり前のように食しているものが主なメニューである。驚くのは、見た目は寸分違わずラーメンや味噌汁なのだが味が全く異なること。我々日本人にとっては、これは一体何だ?と首をかしげたくなる代物だ。創業者の英国人は、味覚としても日本の料理をこのようにとらえ、感じたまま表現したらこのような代物が出来上がって、お客の英国人連中もそれに共鳴してこんなにも流行ったらしい。

     他人の振る舞いについては冷静に見ることができるもので、“わがまま”の例は分かりやすいと思う。他国の文化を上手に取り入れたつもりでいるのは当人だけで、文化を提供した側からすれば、全くトンチンカンに思えることは多いのではないだろうか。ひるがえって、我々の日本という国(民族)を考えてみると、外国文化を上手く取り入れるのが得意、すなわち外国文化を日本流に上手くアレンジして取り入れるのだと言われてはいるが、外国文化(特に西洋文化)を取り入れたつもりではいても、実のところは手前勝手に解釈してとんでもないトンチンカンな代物を作って満足しているに過ぎないのかもしれない。良し悪しの議論をしたいわけではない。文化はそう簡単に融合できないのではないかという話である。ちなみに、私の大好きな“ナポリタン”など、イタリア人はパスタと認めるのとは到底思えない。

     私が籍をおいたドイツの大学で見たものは、ヒトの生理あるいは病態を探るうえで、まずは徹底的に議論し、理論を構築したうえでその理論を動物試験という手段を用いて検証するというスタイルである。このスタイルの前提として、「ヒトの生理・病態=動物の生理・病態」という概念が前提としてなければならない。大事なのは、彼らは、それが正しいかどうかは別にして、「ヒト=動物」という概念、言い換えれば「ヒト=動物」であるという取決めをしたうえで試験を実施していることである。

     ところが、この「ヒト=動物」という概念がいま欧米で揺らいでいるように思える。特に、医薬品開発にとって必須であると信じられてきた動物試験に対する考え方が、動物福祉、生命科学を推し進めるうえでの方法論の変化など、様々な観点で議論が複雑になり、実施がきわめて難しい状況になってきている。特に一昨年、2010年に欧州議会で議決された改正動物福祉法では霊長類の使用がきわめて制限され、これが大きな波紋を呼んでいる(図1)。これに伴い、いま、霊長類すなわちいわゆるサルに代わる生命科学研究に適した動物種“ブタ”が俄然注目を集めている。本稿では、2011年夏に開催された“八ヶ岳フォーラム”でお話させていただいた内容を中心に話を進めたい。

〈毒性質問箱〉
  • 菅井 象一郎 , 南谷 賢一郎, 加藤 晴香, 青木 淳, 孫谷 弘明
    原稿種別: その他
    2012 年 2012 巻 14 号 p. 143-152
    発行日: 2012/09/25
    公開日: 2023/12/27
    解説誌・一般情報誌 フリー

     腎臓は、その機能や構造の特徴から、薬剤の影響を受けやすい臓器である。非臨床試験や臨床試験での腎障害の検出には、血中尿素窒素(BUN)や血清クレアチニンがバイオマーカーとして汎用されているが、どちらも検出感度が低く、腎機能が50%程度低下して初めて変動が認められる1)。また、BUNや血清クレアチニンの変化は、腎臓以外の障害や生理的な変動によっても認められることから、腎障害バイオマーカーとしての特異性も十分とはいえない。こうしたことから、薬剤誘発性腎障害をより早期かつ特異的に検出する新規バイオマーカーが望まれている。そのような背景のもと、2006年にCritical Path Instituteにより設立された安全性予測試験コンソーシアム(Predictive Safety Testing Consortium: PSTC)の腎毒性作業部会では23種のラットの尿中腎障害バイオマーカーが検討され、以下の7種の新規腎障害バイオマーカーについての有用性が示された2-4)

     ①Kidney injury molecule-1(Kim-1)

     ②アルブミン

     ③クラステリン

     ④Trefoil factor 3(TFF3)

     ⑤総蛋白

     ⑥シスタチンC

     ⑦β2-マイクログロブリン

     PSTCから推奨された7種のバイオマーカーに関して、2007年にFDAとEMA、2010年にPMDA においてその適格性が確認され、既存の腎障害バイオマーカー(BUN、血清クレアチニン)との併用使用を前提として、非臨床試験におけるラットの急性腎障害を検出する際の付加的な情報を与えるバイオマーカーとしての有用性が認められた。

     そこで安全性評価研究会では、実務担当者間での情報交換や課題の共有を目的として、2011年9月の八ヶ岳フォーラム、同年12月の冬セミナーにおいて腎障害バイオマーカーに関する議論を行った。特に、八ヶ岳フォーラムでは、腎障害バイオマーカーの現状の問題点や今後の課題について、臨床の先生方を交えてグループ討議を行い、非臨床から臨床につなげるための課題整理などを行った。本稿では、これまで議論した内容と腎障害バイオマーカーに関する最近の話題をQ&A形式で紹介する。

〈活動記録〉
編集後記
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