2012 年 2012 巻 14 号 p. 5-12
1. 実験動物としてのブタを取り巻く環境
一般的に非臨床試験ではラット、マウスなどのげっ歯類とウサギ、イヌ、サルなどの非げっ歯類が用いられている。げっ歯類は入手しやすく、取り扱いが容易なうえ、試験データが豊富であるため多用されているが、試験データのヒトへの外挿を考えると非げっ歯類、特にサルでの試験は重要である。しかし、常に動物実験と一緒に語られるのが、動物愛護の問題である。近年、動物愛護の意識が高まり、非臨床試験に身をおく者としては避けて通れない問題となっている。ラット、マウスは実験動物として生産されているうえに、野生種は害獣として駆除の対象となっているが、ウサギ、イヌ、サルはペットとしても身近であり、動物実験に供することへの風当たりは強い。このような背景のもと、食肉用の産業動物であるブタが実験動物として注目されている。
欧米では実験動物としてのブタは使用数でもイヌやサルと同程度に用いられているが、日本での認知度はまだ低い。ブタはその生理学的・解剖学的特徴がヒトに近いとされており、これまでも心血管、消化器、皮膚科領域の評価に用いられてきた。社団法人日本実験動物協会が公表している平成22年度の実験動物の年間販売数では、イヌが8,326匹、サルが3,032匹に対して、ブタは1,613匹と少数である。しかし、平成19年の販売数と比較すると、イヌ(▼32.7%)、サル(▼12.4%)、ラット(▼14.9%)で減少しているにもかかわらず、ブタだけが増加(△24.0%)している1)(表1)。日本においても少しずつ実験動物として利用される機会が増えていると思われる。