谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
レクチャー ファーマコビジランス
7-3 臨床副作用の予測における非臨床からのアプローチ:
アセトアミノフェンによる臨床慢性肝機能障害における高感受性集団に関する研究
小林 章男近藤 千真菅井 象一郎
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2013 年 2013 巻 15 号 p. 64-73

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抄録

 医薬品による薬剤性肝障害(Drug Induced Liver Injury: DILI)は、規制当局による医薬品の適応制限や市場からの医薬品の撤退につながることがある重大な副作用の一つである。よって、開発化合物のDILI誘発性評価の精度向上は、製薬企業が、安全で有効な医薬品を開発するために避けて通れない課題となっている。しかし、複数の調査報告によると、非臨床試験段階の化合物の8~15%、臨床試験段階の化合物の21~29%、市販後医薬品の32%にDILI が認められるとされている1-3)。これらの数値からわかるように、特に、臨床試験段階及び市販後において比較的高率にDILIが報告されている。このような状況は、医薬品開発に関わる我々トキシコロジストが、医薬品の非臨床開発段階において臨床におけるDILI誘発ポテンシャルを十分に評価、予測できていない現実を示している(図1)。

 新規医薬品の開発においては、臨床での副作用を予測するためにin vivo及びin vitro非臨床毒性試験を実施して開発化合物の毒性プロファイルを詳細に評価する。in vivo非臨床毒性試験は、通常、遺伝的に均一な実験動物を用い、飼育環境や試験操作を揃えた均一な試験条件下で行われている。一方、ヒトは遺伝的な面でも生活環境の面でも多種多様であり、臨床におけるDILIの発現には、患者の遺伝的要因とともに生活環境要因が関与することが知られている。したがって、ガイドラインなどで標準化された試験条件で実施した非臨床毒性試験の結果をもとに、臨床でのDILI誘発ポテンシャルを予測することには限界がある。

 このような背景を踏まえ、現在、多くのトキシコロジストは、被験者及び患者の副作用リスク最小化を目指し様々な新規手法を駆使しながら、医薬品候補化合物の臨床におけるDILI誘発ポテンシャルの推定精度の向上に取り組んでいる。

 本稿では、臨床用量(治療用量)でも一部の患者集団(高感受性者)において慢性肝障害が発現することが知られているアセトアミノフェン(APAP)を取り上げ、APAPによる慢性肝障害のリスク因子に着目した非臨床評価法及び期待されるバイオマーカーについて概説する。

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© 2013 安全性評価研究会
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