森林バイオマスの大部分を占める樹木の幹枝の呼吸は,炭素循環の重要な一要素であり,その定量には器官表面で測定されたCO2放出速度(EA)が用いられてきた。しかし,幹や太い枝,粗根など,厚い木部をもつ器官では,内部の温度やO2環境に大きな勾配がある上に,組織による呼吸能力の違いや,CO2の拡散,溶解といった物理的プロセスがEAに影響する。特に最近では,樹液流が辺材内のCO2を輸送するために,EAが呼吸速度と大きく乖離する事例が多数報告されており,器官内部のCO2動態に注目が集まっている。これにともない,温度や器官のサイズなど,器官の外的要素とEAの関係に注目した従来の研究に加え,今後は各組織の呼吸能力や解剖学的特性,生化学的特性など,内的要因との関係にも注目する必要があると考えられる。そこで,本稿ではEAと内的特性の関係の理解を深めることを目的に,幹枝を中心とした非同化器官のEAと呼吸に関するこれまでの知見を整理し,今後の課題について考えた。