2013 年 2013 巻 15 号 p. 77-82
医薬品候補化合物の臨床試験における薬剤性肝障害は、開発の過程で頻繁に遭遇する副作用の一つであり、被験者の安全性を確保するためには肝逸脱酵素活性値の異常をモニターすることが重要であると考えられている。候補化合物の薬剤性肝障害への潜在的なリスクを把握するために、臨床試験開始前に実施される動物を使用した非臨床安全性試験では、臨床試験でモニターされる酵素活性値に加えて、病理組織学的検査など臨床では実施できない詳細な検査が行なわれる。しかしながら、ヒトと動物の間の生物学的な反応性の差である「種差」は、医薬品候補化合物を初めてヒトに投与する際には、依然としてリスク予測面での大きなハードルとなっている。
このギャップを乗り越えるために、安全性に重点を置いたデータの収集が行なわれる臨床第1相試験と非臨床安全性試験成績との比較データが集積されていけば、初めてヒトに候補化合物を投与する際の副作用予測の精度は向上し、被験者の安全確保への貢献は大きいと考えられる。しかしながら、こうした臨床第1相試験の副作用に関する成績は、企業の様々な事情から非臨床成績と比較可能な形で公表される例は本邦では非常に少ない。
そこで今回は、弊社で経験したタイプA(薬理作用による副作用)の機序によると考えられる肝逸脱酵素活性値上昇を認めた臨床第1相試験の事例について、非臨床安全性試験成績と比較し、考察を試みた。