谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
レクチャー ファーマコビジランス
7-6 日本人を対象にした副作用に関するゲノム・メタボローム解析
斎藤 嘉朗前川 京子鹿庭 なほ子
著者情報
解説誌・一般情報誌 フリー

2013 年 2013 巻 15 号 p. 83-96

詳細
抄録

 臨床試験段階では、投与される患者数が限定されているため、発生率が低い副作用は検出されない場合が多く、市販後に明らかになるケースが多い。現在、厚生労働省では、事後対応型から予測・予防型の安全対策へと施策を進めており、副作用の早期発見、早期治療による重篤化の回避のため、重篤副作用疾患別対応マニュアルの整備、インターネットを通じた迅速な情報提供及びリスク最小化計画の施行に加えて、1,000万人規模の医療情報データベースの構築と、これを用いた副作用シグナルの検出等を予定している。しかし、比較的稀な重篤副作用は、投与前の発症予測が難しい、副作用と認識されることが少ない、さらに仮に早期発見により服用を中止しても症状が重篤化してしまうことがある、という特徴を有する。このため、投与前に高リスク患者を予測し、投薬を回避するという、より積極的な対策も必要と考えられる。

 医薬品の副作用発現における個人差をもたらす要因として、遺伝的なものと環境的なものがある。遺伝的要因としては、ゲノム配列上に約1,000塩基に1カ所の割合で存在するる遺伝子多型(塩基の置換・挿入・欠失)があり、また一定の長さの配列が繰り返される回数が異なるコピー数多型も知られている。このような塩基配列の変化の中には、遺伝子の発現量(mRNA量)やタンパク質機能(酵素であれば酵素活性)に影響を及ぼすものがあり、副作用発現に個人差が現れる原因となりうる。これまでに、副作用発現と関連する遺伝子多型が多数報告されてきた。また、環境的要因には、併用薬(薬物相互作用)、飲食物(グレープフルーツジュースによる薬物代謝酵素シトクロムP450の1種であるCYP3A4の阻害など)、喫煙(CYP1A2の誘導など)、基礎疾患(炎症によるCYP3A4の発現低下など)等の影響がある。これらの影響は後天的であるため、ゲノム情報では捕捉不可能であるが、タンパク質(プロテオーム)や内在性代謝物(メタボローム)の変化として捕捉することが可能である。

著者関連情報
© 2013 安全性評価研究会
前の記事 次の記事
feedback
Top