谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
レクチャー4 複合型毒性試験
4-2 安全性薬理評価項目を組み込んだ複合型毒性試験の現状と問題点
−中枢神経及び呼吸系への作用評価の組み込みについて−
出口 芳樹
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2015 年 2015 巻 17 号 p. 71-76

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抄録

 安全性薬理試験の実施方法について、日本では2001年に「安全性薬理試験ガイドライン」1)(平成13年6月21日医薬審発第902号)として厚生労働省から通知された。安全性薬理コアバッテリー試験の目的は、生命維持に重要な影響を及ぼす器官系における被験物質の作用を検討することにあり、中枢神経系、心血管系及び呼吸系が通常コアバッテリーで確認するべき器官系とされている。また、in vivo試験を行う場合は無麻酔・非拘束動物から得られたデータが望ましいとされている。従来から実施されている独立した安全性薬理コアバッテリー試験において、中枢神経系に対する作用は、Irwin変法や機能観察総合評価法(functional observational battery: FOB)を用い、行動変化、協調性、運動量、感覚/運動反射、体温などを指標として評価される。心血管系に対する作用については、非侵襲的な測定(テレメトリー法)によって心拍数、血圧及び心電図が評価される。 呼吸系に対する作用に関しては、小動物ではwhole body plethysmography法(WBP法)によって呼吸数、一回換気量及び分時換気量が評価され、大動物ではテレメトリー法を用いて血圧波形の揺らぎをカウントした呼吸数、ならびに動脈血による血液ガス分圧及びヘモグロビン酸素飽和度などが評価される。一方、本ガイドラインには、「毒性もしくは薬力学的試験の一部分としての安全性薬理エンドポイントを評価することで十分な場合があり、独立した安全性薬理コアバッテリー試験を削減または省略することができる」という記載もある。しかし、安全性薬理エンドポイントは一部を除いて、一般毒性試験で用いられる観察法や測定法では明確に捉えられない、あるいは適切に評価できないとの理由から、安全性薬理評価が一般毒性試験あるいは薬物動態試験に組み込まれることはほとんどなかった。

 2010年に「医薬品の臨床試験及び製造販売承認のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」2)(ICH M3)が改正され、「安全性薬理試験の使用動物を削減するため、in vivoで評価する場合には、可能な範囲で一般毒性試験に安全性薬理評価を組み込んで実施することを考慮すべきである」と記載された。同様に、2010年及び2012年にそれぞれ厚生労働省から通知された「抗悪性腫瘍薬の非臨床評価に関するガイドライン」3)(ICH S9)及び「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価」4)(ICH S6)においても、独立した安全性薬理試験を縮小または省略可能という文言が記載された。

 株式会社新日本科学 安全性研究所における安全性薬理エンドポイントの一般毒性試験への組み込み状況を図1に示す。ICH M3の改正前(2009年以前)と改正後(2010年以降)で比較した場合、ICH M3改正以降はラット及びサルを用いた一般毒性試験に安全性薬理評価を組み込んだ試験は明らかに増加している。また、安全性薬理評価を組み込んで実施した試験の被験物質は、ラット及びサルともにバイオ医薬品などの高分子化合物がほとんどであり、低分子化合物における組み込み試験はわずかである。組み込み試験種としては、ラット及びサルともに4週間反復投与毒性試験が多く、ラットでは2週間試験への組み込みも多い。ラットでは中枢神経系と呼吸系の両方に対する作用評価を組み込んだ試験もあるが、その多くはサルと同様に中枢神経系への作用のみの評価である。心血管系に対する作用評価の組み込み試験はラット及びサルともに実施していない。

 医薬品開発において、動物福祉への配慮、バイオ医薬品や抗がん剤の開発増加から、独立した安全性薬理評価に用いられている方法を一般毒性試験に組み入れる機会も多くなってきている。しかし、安全性薬理評価を一般毒性試験に組み込む場合、独立した安全性薬理評価の方法をそのまま組み込むことができるか、組み込むことができない場合はどのような方法で評価可能か、安全性薬理試験は単回投与による評価なので反復投与の初回投与日に評価することができるか、どのようなスケジュールで実施すればよいかなど、多くの課題を解決しなければならない。

 本稿では、開発化合物の非臨床安全性試験において、中枢神経系及び呼吸系に対する安全性薬理評価の一般毒性試験(反復投与毒性試験)への組み込みの現状と問題点を紹介する。なお、心血管系に対する安全性薬理評価の一般毒性試験への組み込みに関しては、毒性質問箱第14号「一般毒性試験に安全性薬理評価(心血管系)を組み込む際の課題」5)を参照いただきたい。

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